医薬品工場に求められているHSE要件と事例【第44回】

国際化に対応する医薬品会社に必要なHSEとは?
「日本国内製薬企業に必要なダイバシティ人材育成について」


1、    製薬企業のあるべき姿

製薬企業の国際化多様化が進む中、国際社会は日本国内企業の多様性対応が大変な遅れを取っていることをよく知っています。又、日本の製薬企業工場でも国際化多様化が求められていることは周知の事実です。当面の課題は遅れを取り戻すことですね。そんな中、これからの企業の発展を考えたときに求められている人材とその人権尊重問題は両輪で機能させなければ企業の発展や事業の安定継続は厳しい時代にすでになってしまいました。2023年の段階で日本企業の国際競争力はまだまだ改善出来ていない事が新聞で報じられています。求められる人材を育成し、人権尊重により企業の発展に寄与してくれる人材の育成とその人権尊重のためのプログラムを社内に規定して運用されている企業は現在全企業の25%程度と言われています。更にこの規定の構成や求められる要件を書き出してみると以下のようになると筆者は考えているところです。既存の役員会には外部情報が少ないため役に立つ監査能力を持った社外取締役の役割は大きいと考えます。従って、社外取締役に注目してみます。

  • 社外取締役は製薬企業に求められている国際的な人権侵害やその現場監査能力と製薬企業の技術的な機械や電気物理の知識とイノベーション(技術革新)能力が必要
  • 又、社外取締役は働き方改革やダイバシティ(人材の多様化)対応
  • 取締役会の構成メンバーは会社が必要とするスキル経験を持ち、社員に浸透させる能力が必要で国際社会の変化に対応した考え方に多様性を持たせる事が重要
  • 又、取締役会は女性取締役を30%以上にする目標を持ち、その為の女性取締役向けまたは女性管理職向け育成教育を中長期で計画し、その投資予算を確保する事
  • 社外取締役はその重要能力として製薬工場・研究所・試験室など高活性原薬や化学物質の取扱いが存在する作業現場をAuditし、社内会議でObservation(気になったこと)として社員の安全リスクや社員の健康被害となる化学物質の曝露リスク、取扱いリスクを問題定義する
  • 社外取締役はサプライチェーンのAuditにも参加し、ビジネスの継続(BCM)に対する課題を取締役会にて問題定義する事が出来なければいけない

つまり、お飾りの社外取締役は過去にどんな会社の社長や重役をしていても役に立たない事に気づかねばなりません。又、重要なのは一人で出来る事は限られているので、既存の取締役会メンバーと協力して役割分担をし、課題解決するのがあるべき姿と言えます。

さて、本件課題である人材の多様化対応を進めた暁には社員の半数が外国人(米国、欧州、アジアその他)、25%は女性管理職という姿をイメージせねばなりません。その為にはキャリア採用が中心であった採用を人材育成型に徐々に切り替えねば、人材の確保は厳しい時代に対応が求められています。

筆者の考える、あるべき姿は将来、管理職として又は役員として会社を発展させ、ビジネスを継続させる基盤を作るため、ポテンシャルのある多様(国籍を問わず)な若手を選抜し、国内外の異動を通じて教育し、育成するプログラムを取締役会の責任でグローバルスタンダード化する事、その為に技術部門、医薬品生産オペレーターなどを中心に人選し改革を図ることが企業のビジネスを100年継続させるためのあるべき姿と考えます。

これからの医薬品企業の国際的人材教育と課題

  • 近いうちに従業員の10%は日本国民である外国人
  • 外国人従業員が良い仕事をしてくれるような環境作りのための国際的人材教育
  • 技術を持った即戦力となれる人の数は極小、社員の積極的な専門家育成教育の実施
  • 女性の活躍の場を積極的に拡大する、その為の女性管理職育成教育
  • 女性が働きやすい職場を作らねばビジネスは継続してゆけない時代となった
  • 人権侵害、児童労働、差別問題(仕事の配分、給与、残業など)をサプライチェーン各社に公表を求め、教育も行う

人的多様性の課題は日本でも直視しなければなりません。アメリカ・EUをはじめとする各国で人権問題が原因でデモや暴動があちこちで発生しています。なぜ発生するのでしょうか? 原因を知ることから始める事が大切です。調べてみるといろいろな原因が多面的に存在していることが解ると思います。そこで、人的多様性の問題は国内のみならず、国外に多かれ少なかれ供給元・供給先・委託元・委託先など自社他社を問わず取引先が存在している現状があることがそのバックグラウンドとなります。重要な問題はサプライチェーンです。国内はもちろん海外のサプライチェーン各社における多様性の「責任あるサプライチェーン等における多様性」のためガイドラインです。お膳立てはできています。製薬企業で注意すべきは日本国内のみ工場を持っている製薬企業も現在は多くの会社で海外の企業から原薬や資材を輸入している事例が少なくありません。どうやら魅力があるようで、2022年の現状で開発途上国での安価な委託生産や自社工場稼働など多かれ少なかれ、サプライチェーンマネジメントが必要な環境になってしまっているようです。

あるべき姿は世界中で各企業がそのビジネス継続のためお互いに関係工場間・企業間でサプライチェーンAuditを行い、取引を行う相手の財務諸表や人権尊重などの調査により、従業員の労働条件や待遇などのリスクを特定評価し、予防とリスク低減、対策を講じるため人的多様性のプロセスをプログラムしたグローバルスタンダード(人種・国籍・性別・障害のあるなしなどにおいて柔軟に対応できる)を策定し、教育を通じて救済可能な会社運営を行わねばなりません。自社の多様性配慮をグローバルスタンダード化することで国内のみならず、世界中のサプライチェーン各社に働きかけることが近未来の企業活動を担保してくれるものと考えます。


2,国内製薬企業の現状

しかし、日本の製薬企業で国際化多様化を考え、人権侵害や人権尊重を外国人がどのように捉え、企業に社会的責任を追及してくることは常識的と考えている企業はまだ少ないと思われます。背景に日本人の文化や国の法制度や国内行政組織の構成など様々な要素(親告主義)が関係していることは大多数の企業が承知しているところです。多様化人材の育成は今緊急に必要な重要課題となってきました。なぜなら、以下の要因が多くの製薬工場にまだまだ課題として存在しているからだと考えます。以下にいくつか列記してみます。

  • 古い文化の企業においては工場の隅々まで知っている仙人のような古株社員が有能な若手の独立、成長の障害になっていないか。
  • 近年ここ約20年~30年の間に新入社員教育以外の技術レベル向上のための定期的な年次人材教育を1名当たり、年20時間以上実施され、教育記録や教育内容が習熟度試験にて評価されているか。 又、育成成果を再評価し、課題については再教育を行ってきたか。
    これらにより受講者は会社が率先して指導し、安全リスクや健康被害リスクの低減を図っていることを知り、会社を信頼し、良い仕事をしてくれる人材となる事と思います。

∵ これらは多くの医薬品製造現場で働く人たちの仕事に対するモチベーションが高くなり、仕事の内容が変化してくると考えられます。

さて、生産機械が正常であれば、ボタンを押すだけで、製品が出来てくるような機械化がどんどん進んで来ています。その環境の中で、会社のTopはこれだけの投資をしたのだから仕事が楽になっているのに人員削減がなぜ出来ないのかと不満に思っておられる経営者の方々が大勢おられるようです。筆者が心配しているある製薬工場の課長さんの会話では機械が勝手に生産してくれているから「オペレーターは安全面や原薬の曝露も安全カバーやアイソレーター、グローブボックスに入っているから“リスクゼロ”で保護具の心配も何もありません」の一言に筆者はこれを聞いて寒気がしました。だから、教育も不要とのことでした。これは世間では数少ない事例であって欲しいと願った次第です。

筆者がHSEの専門家として申し上げたいのは、医薬品の製造、特に高活性原薬を扱う仕事や化学物質の製造の夫々で多少異なりますが、以下のポイントが抜けた100円課長さんだと思っています。

  • 安全カバー:可動部が安全カバーで100%覆われ、インターロックSWで開放すると機械が自動停止する。と言う仕組みですが、インターロックSWの動作回数をKSE(重要安全要素)としてリスクアセスメントし、評価結果をオペレーターに共有教育しているか
  • 安全カバーのない可動部はないか、リスクアセスメントしたか
  • 安全カバーをメンテや修理時インターロックを殺して作業をする為、Permit System(安全装置許可証プログラム)で運用担保しているか
  • 圧力空気、電気、油圧などの装置について停止ボタンを押した後、圧力放射、放電接地、などを行ってから専門家の2重チェックで作業開始許可を出しているか
  • 高活性原薬曝露などのリスクアセスメントで生産工程の間の作業(運搬、清掃、洗浄、切換など)工程を評価し、OEL(曝露限界値)で評価結果を検証しているか、リスクの大きさを共有して、リスク低減対策を実施しているか

人材教育はその必要性や知識レベルが伴わない100円管理職には不要としか考えが及ばないかもしれません。

日本企業の現状

  • サプライチェーンの法的責任が自社に及ぶ可能性が大きいのに他人事と理解している。
  • サプライチェーンの中でリスクの大きい工場への関与が出来ていない。
       有事の際のBCMで自社の生産業務継続に大きな支障が発生するリスクがある。
  • 人権尊重とその教育への対処策やプログラムを持っていない。
    ・・・グローバルスタンダード化しガイドラインに従い実践する事が求められます。

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