【第4回】デジタルヘルスで切り拓く未来

 

「デジタルヘルスは本当に新しいのか」



●要旨
 デジタルヘルスの進展を支えるDASH for SaMD2が公表され、ますます環境整備が進んでいます。いかに良い開発サイクルに参加していくかが、今後の大切なポイントとなるでしょう。デジタル治療薬(DTx)や診断支援技術への関心が高まり、医療のシーンを変えていくことが予想されます。しかし、そのはたらきと事業化については、本質をしっかりと見つめておく必要があります。
 
●はじめに 開発環境の整備と法規制
 今日では、デジタルヘルスは、私たちの医療はもとより、暮らしにも欠かせないものとして考えられています。2000年頃にはすでに提唱されていましたが、ようやく実感を持って迫ってきたといえるでしょう。政策的な推進にも拍車がかかっており、行政がどう考えているかは、薬機法だけでなく、研究開発から産業振興に関する動きにも反映されています。開発環境の整備やガイダンス・ガイドライン等の設定も行われています。アクセルとブレーキのようにも見えますが、推進のための適切な方向性の提示です。また、社会実装に向けてのアドボケーション活動も盛んです。こうしてみると、20年ほどの時間をかけて整備されてきたようでもあります。最近に始まった動きではないことはお分かりいただけるでしょう。

<図表> プログラム医療機器等の課題と対応 

1 DASHしていますか
 近年の急激な人口構成の変化や働き方改革などを背景とした医療のリソース問題などを考えますと、私たちは本当に急がないといけない状況です。その対応がよくわかるのが令和2年から始まったDASH for SaMD(プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略)の取り組みだと思います。すべてが最初から整えられているものではなく、この3年で開発環境の整備が行われ、できるだけ早くデジタルヘルスを必要な人のところに届けるために、動きがはっきりしてきました。最近では、審査のポイントも公開されています。令和5年9月には、DASH for SaMD2が公表されました。
 この取り組みですが、特徴的なのは、開発者側も早くから参画することを推奨していることにあります。審査制度の改善だけではありません。医療機器のライフサイクルマネジメントを求めていると同時に、開発環境にもライフサイクルマネジメントの考えがあります。特に、ウォーターフォールよりアジャイルな手法が用いられるデジタルヘルスにおいては、この仕組みは大切です。ソフトウェアが用いられるシーンは昔からありますが、何かのためにソフトウェアを用いるのではなく、実現したいことを調整していくのにソフトウェアを用いるのですから、DASHする力は大切です。DASHそのもののサイクルもできるだけ早く回す必要があります。
 
2 デジタル治療薬(DTx)の意味
 最近の「新しいところ」を掬い上げて紹介していきたいと思います。
 行動変容を企図するデジタルヘルス製品は、従来にはなかった医療製品です。政策上でも新しいものとして扱っています。レギュラトリーサイエンスにかかる調査研究等もしっかりと行われています。行動変容の仕組みである介入にはどのような効果とリスクがあると考えられるか、影響するファクターは何があるかなどが報告書に説明されています。従来の医療製品やサービスでは十分な治療効果等が得られなかったところへアプローチすることを目指し、行動変容を企図するものがデジタル治療薬(DTx)として登場しています。
 デジタル治療薬という言葉を用いることから、薬価がつく、と考える人が少なくないのですが、情報という薬であり、情報に基づく介入であり、そのコアの部分には、医療機器であるプログラム(SaMD)があります。したがって、主たるところは医療機器としての扱いを受けます。ここで気がついておいて欲しいのは、保険適用ありきではないことです。さらに健康増進を目指すアプリやリスクの低いアプリについては、医療機器としての扱いを受けません。したがって、ビジネスプランの作り方も従来とは違います。
 行動変容自体は、私たちの人生のいろんなシーンに存在しています。子供時代の「めあて」やモチベーションの仕掛けは、より良い生き方に行動変容するものでした。また、優れた医療者は患者さんへのアドヒランスの考えのもと、上手な声かけをしていきます。しかしながら、これからの医療リソースの偏在や不足を考えると、誰もが専門的治療を受けることができるとは限らず、また、暮らしの中で自ら医療に取り組むことも必要です。そのような時に、DTxが役に立つのです。
 診療の空白時間はいろんなところにあります。また、生活習慣病は、習慣に根差した問題があります。アプローチの手段として新しい方法であるDTxが有用と考えられているのですが、その本質については、これまでにあった知識と経験が活用されていることが多いです。それは上手な患者さんへの介入の仕方に倣ったものであり、人工知能(AI)を利用して寄り添っています。これはリスクの読み方とも関係します。すでに診療ガイドラインが確立しているものもあり、それらと比較しながら理解していくと良いでしょう。

 

 

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