再生医療等製品の品質保証についての雑感【第53回】

第53回:バリデーション設計の考え方 (9) ~ 閉鎖系システムの開発はバリデーション設計に直結します

はじめに
 本稿でも、前回に引き続き、よりリーズナブルな工程およびバリデーションの設計を考察していきたいと思います。前回までに、機械操作によるCMC実施が最も簡便にバリデーション設計を構築できる手段とご紹介し、汎用の機械装置の採用時におけるデザインバリデーション(DV)についてお話しをしました。閉鎖系の培養システムは、多くが懸濁培養のような非接着細胞の培養で用いられおり、幹細胞を加工する細胞加工品製造においては馴染みが薄いですが、その開発には、非常に高度なバリデーション設計が含まれていると認識します。

● 閉鎖系システムにおける開発対象とその要件とは
 閉鎖系システムは、安定状態における管理よりも、不安定な状態における適切な手順構築が重要となります。必要な原材料等を適切に容器へ導入するなど、安定化に至る準備のため、適切な手順を再現性よく実施することが必要です。ここで、特にヒト幹細胞を培養する細胞加工製品の製造では、以前にもお話しした通り、培養工程中に不安定な状態が生じます。そうです、培地交換や継代などの操作です。
 ヒト幹細胞は、一般的に、シェアストレスなどの応力により劣化を生じさせます。そのため、培養時に攪拌など物理的な均一化が困難であるため、培地交換や継代の作業時においてプロセスが大きく乱れます。閉鎖系にて、作業の乱れを最小化/最適化するには、液送による手順を構築し、それらを適切に実行できるための、閉鎖系回路設計が最も重要なポイントとなります。
 閉鎖系回路設計では、複数回実施される培地交換用の専用ポート(新液/廃液)や、継代時に細胞懸濁液を別容器に移送するための無菌接続ポートなどが不可欠となります。全量培地交換の場合、培地交換作業の実施は1~2日間隔のインターバルとなるため、工程作業は、安定状態(生育時)と不安定状態(操作時)の繰り返しに対しての冗長性が要求されます。そもそも、全量の培地交換という手順が、工業的な製造において適切か?という議論もあると考えますが、ここでは割愛します。
 もちろん、ポートの設計だけでは足りません。閉鎖系回路は、各ポートを用いた作業において、適切な液相速度や、酵素処理時間、攪拌条件などを満たすように、適切に制御が可能な動作パラメータを準備することが不可欠で、その結果として、再現性良く目的の作業(アウトプット)が達成できることは、保証(予測)できる必要があります。
 このように、閉鎖系回路には、凍結細胞の回路への導入手順から、培地交換における液補充/廃液回収、継代時における洗浄/濃縮/再懸濁や、容器間での移送など、製造期間中におけるほぼすべての調整手順が、対象製品/必要製品数を満足するように組み込まれるべきものとなっており、工程設計に向けた重要な行程技術開発の対象であることは自明です。

 筆者の個人的な意見としては、この時点で、安易に汎用の培養装置に目を向けて、お気楽に購入を検討することは、いかに危うく、到底考えられない(後の最適化に至るハードルの高さに怯える)ことであることが、容易に予想できると思います。閉鎖系回路の設計は、経済産業省の開発ガイドライン「32 細胞加工に特化した工程資材の要求事項に関するガイドライン2017(手引き)」をご参照ください。当該ガイドラインの解説は、2021年11月の医療機器等ガイドライン活用セミナー♯26ヒト細胞製造システムガイドライン解説において、藤森工業株式会社 松田博行様より行われ、下図のように、適格性評価を前提とした設計要求の考え方が示されました。
 

図.  シングルユース工程資材(閉鎖系回路)の設計手順に関する考え方
【セミナー資料より引用】

 

 

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