新しいGMP教育訓練像を求めて【第3回】

"はじめに
 今回も主として概念的な話となるが、すこしずつ具体的な話を取り入れて行きたいと考えている。さて、OJTは、いうまでもなく“On-the-job training”または“On Job Training”の略称である。“direct instruction” (直接指導)とも呼ばれており、英国では“sit-by-me training”(傍に座らせての訓練)とも呼ばれる。OJTの日本語訳は、ネットで調べてみると「職場内研修」や「職場内訓練」という訳語が定着していると思われる。比較的長期にわたってのOJTは、「計画的OJT」とも呼ばれている。
 ネットにはOJTに関わるwebsiteがあふれており、OJTを学ぶに上での情報入手には、事欠かないであろう。このことは、OJTという教育訓練形態が産業界で普遍的である反面、その実施と効果は問題も多くあることを示唆している。事実、ネット上には「OJTで指導を受けたが、役立った記憶が無い」とか「新人の教育をOJTで指導するように命じられたが、業務多忙のなかで困惑している」と言った意味の投稿も多い。
 今回は、OJTが本来どの様な意図を以って成立したのか、またOJTの導入、運営、そして評価で留意すべき事項は何かを議論する。
 
1. OJTの成立(アレンの4段階職業訓練指導法)と日本との関わり
 OJTが成立した背景を考えることは、OJTが持つ長所と短所、そして限界を考えるうえで重要である。OJTの概要は、ウィキペディアの日本語版 “OJT” で容易に知ることが出来る。より詳しくは、D. A. Sleight氏(ミシガン州大;1993)の論文 (注1) がある。以下にウィキペディアの日本語版からこの連載に関わる部分の要点を、抜粋して簡単に紹介する。:
 このOJTという手法は、米国において第一次世界大戦による造船所での人手不足を背景として、チャールズ・R・アレンにより開発されたものである。人手不足に対応するため、現場監督により新人教育を行うというための手法がOJTである。教育学ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルトの5段階教授法を参考として、アレンは1917年に4段階の職業訓練指導法を開発した(表1)。この内容は、古典的ではあるかも知れないが、今でもOJTを実施する上で大変参考になる。
 その後、アレンの4段階職業訓練法は第二次世界大戦中に、米国戦時人事委員会によって監督者向けの企業内訓練(TWI:Training Within Industry)のプログラムに発展した。OJTによる新人の指導の成否が、その訓練者(監督者)の人格と能力に大きく左右されることを考えればOJTとTWIは対をなすものとみることが出来る。


表1 アレンの4段階職業訓練指導法(ウィキペディア(日本語版)“OJT”による。;
一部の語句を変更している。​


 
 OJTもTWIも、第二次世界大戦後に日本に導入されて今日まで続いている。ここで深く考えなければいけない点がある。例えば、当時、医薬品工場でOJTという教育訓練システムを始めて導入した時、それは工場の教育訓練の一担当者が判断し、実施出来るレベルであるか、という点である。この導入には会社としての、つまり経営陣の強い意志や、人事(人材開発)部門の理解と支援があって初めて導入が可能なものである。
 同じ頃に日本の産業技術を支えた論理的な教育訓練として、デミング博士が提唱した統計的品質管理(SQC)がある。これはOff-JT(職場外研修)の形をとるものであった。OJTによる業務知識と、Off-JTによるSQCの論理的知識は、日本の製造品の品質を支える車の両輪の関係ともいえる。
 しかしOJTもSQCも企業内の一部の人達が個人的努力により行ったとしても、日本が誇れる高い品質を確保し得たとは思えない。企業全体としてSQCやOJTに取り組み、人材を育成して、初めて高い品質が確保できたのである。当時の人材の育成や教育訓練には、経営面での適切なリソースの配分があって、初めて達成できたことを忘れてはならない。"

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