医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第44回】

生殖発生毒性試験


 生殖発生毒性試験がはじまったきっかけをご存じでしょうか。

 年配の方はご存じかと思いますが、1961年のサリドマイド薬害です。サリドマイドは、非バルビツール酸系の鎮静・催眠剤として西ドイツで開発された医薬品で、1958年から販売されていたようです。妊婦がこれを服用した場合、胎児にアザラシ肢症といって、四肢の発達が著しく阻害されて短肢となるような障がいや胎児死亡が日本をはじめ世界中で報告され、1962年には国内で販売停止及び回収が行われております。妊婦に対してつわりの防止になるとして販売されていたようですので、服用した方も多かったのではないかと思います。私は1961年生まれですので、運命のいたずらがあったら、この薬害の被害者となっていたかもしれません。子供の頃、テレビで報道されたアザラシ肢となった同年代の子供たちの映像を見て、ショックを受けた記憶があります。
 その後、FDAが1966年に基本的な試験法を公開し、それが生殖発生毒性試験法基盤となっています。また、サリドマイドの生物学的安全性試験データには、捏造や虚偽が多かったこともわかったことから、やはりFDAが1978年からGLP (Good Laboratory Practice)が信頼性の基準として制定されています。
 なお、サリドマイドの毒性発現のメカニズムとしては、ある種のタンパク質分解酵素に結合して、タンパク質を分解することによるものだそうで、血管形成を阻害して奇形が生じたこともわかっており、この作用を利用して、抗ガン剤としての利用も研究され、現在、多発性骨髄腫の治療薬として承認されているようです。

 このように、おおよその生物学的安全性試験は、残念ながらヒトへの有害事象が明らかになってから開発されてきたという歴史です。
 生殖毒性と発生毒性を合わせたものが、生殖発生毒性なのですが、それぞれ意味合いが異なります。生殖毒性(developmental toxicity)とは、卵子や精子という生殖細胞から、受精、着床、子宮における生育、そして、出生、生成熟までの生殖に関わるライフサイクルに影響を及ぼして、死亡、発育障がい、先天異常などを引き起こす毒性のことを指します。一方、発生毒性(reproductive toxicity)は、いろいろな考え方があるようで、生殖器や生殖内分泌系に影響する毒性を指す場合と、生殖細胞の形成から出生までの間に及ぼされる毒性のことを指す場合があるようです。なかなかこの辺りは分かりにくい定義になりますので、混乱を避けるために合わせて生殖発生毒性と定義したと聞いたことがあります。

 生殖発生毒性試験法としては、令和3年1月29日薬生薬審発0129第8号「医薬品の生殖発生毒性評価に係るガイドラインについて」という通知があり、この内容は医薬品規制調和国際会議(ICH)における試験法を反映したものがありますので、これを少し紹介いたします。
 生殖発生ステージに応じて、下表に示すような3つのタイプの試験が挙げられています。これらは、別々に試験されることが多いのですが、動物福祉の観点で、組み合わせて試験することも許容されています。

1 受胎能及び初期胚発生(FEED)
 げっ歯類を用いる試験法の概要を下表に示しました。ラットやマウスは、ふつう1回に6~10匹程度を出産します。ネズミ算式に増えると言われる子の数です。子宮はヒトや霊長類とは異なり、Y字型になっていて、Yの両辺にいくつもの受精卵が着床するという形態です。着床して育たない場合でも、子宮粘膜に痕跡が残りますので、それを着床数としてカウントします。黄体は排卵した卵胞が変化したものですが、こちらもネズミは産児数に応じた数があり、ヒトとは大きく異なります。


 

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