医薬品の外観目視検査における要求品質の明確化のために【第32回】

限度見本について


1.異物に関する諸国の基準比較(食品の例)
 異物に関する諸国の基準には、大きな相違がある。食品の例ではあるが、日本、韓国、米国の公的な基準は以下の通り、大きく異なっている。

日本:食品衛生法第6条に人の健康を損なうおそれがあるものの販売等の禁止を規定しているが、種類や大きさなどの具体的な基準は定めていない(食品衛生法)。

韓国:口の中で異物を感知できるのが2.0mm程度以上という判断等から、粉末、ペースト、液状の食品に対して「長さ2.0mm以上の異物が検出されてはいけない」という基準設定している(JETRO Food & Agr 2007年11/12)。

米国:1972年から1997年にかけて、FDAのHealth Hazard Evaluation Board が食品中の硬く鋭利な異物が含まれていたケース190件の評価を行った」結果、「最大寸法7ミリメートル以下の異物は(特別リスクグループを除き)外傷・重傷の原因にはほとんどならない(rarely cause)との結論に達した」こと受けて、FDA Compliance Policy Guide (CPG)に、「7ミリメートル以下(特別リスクグループを除く)」を設定している。

 韓国、米国では、サイズ基準が規定されているが、日本では、種類や大きさなどの具体的な基準はない。これは、日本薬局方の注射剤の異物基準が、「たやすく検出される不溶性異物を認めてはならない」や「明らかに認められる不溶性異物を含んではならない」とされているように曖昧基準として共通の日本基準のように感じる。

2.日本品質
 前記の通り、日本の異物サイズ基準の曖昧さは、逆に、許容サイズを規定しないことで要求基準が高まり、いわゆる「日本品質」を構築してきたのではないだろうか。日本の高品質な製品は、日本の市場の顧客の厳しい目、高い要求水準に応えることにより実現してきたと言われることが多い。国内の厳しい顧客のニーズに鍛えられることによって、日本の「ものづくり」は世界一とも言われる品質を誇るようになったと言っても過言ではない。

2.1 過剰品質
 日本における医薬品の外観特性や異物に対する品質要求が諸外国よりも異常に厳しいと言われる。日本では製品の外観特性が均質であり、仕上がりが綺麗であるという側面が重視される傾向が強い。これが、「過剰品質」と捉えられることもある。

 問題は、日本の要求は、科学的な理由に基づくものではなく、見た目の綺麗さを外国以上に重視しているという点である。

2.2 過剰品質とコスト
 過去に以下のような事例があり、「日本品質の課題」とされたことがあった。

 1980 年代頃には欧米で製造され、出荷検査に合格した注射剤を日本に輸入してそのまま出荷すると、医療機関から不良品だと苦情が殺到する。日本的な几帳面さで再試験すると半数以上が不合格になるとさえいわれていた。そのため欧米企業は、まず欧米の基準で不溶性微粒子・異物試験を行い、合格品について、日本向けの製品だけは別の不溶性微粒子・異物試験をさらに行い、合格品は日本へ、不合格品は欧米へ出荷しているが、当然コストは高くなる。

 更に、かつて、PTP包装内のカプセルの色の向きを揃えることで、他社との差別化をアピールした製品があった。向きを揃えるための設備を導入することで、コストアップになることは明白であるが、本当にこんなことは必要だろうか?

 

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