オーナーのプロジェクトマネジメント【第20回】

2017/07/17 施設・設備・エンジニアリング

星野 隆

前回に引き続き検証ステージについて記載する。前回までは検証ステージのアクティビティを主体に記載したが、今回はプロジェクトマネジメントの観点から記載する。検証ステージでは、製薬企業側のプロジェクトマネジメントのウェイトが大きいため、詳細に記載する。
 
参考 以前に記載した記事の目次
 1.  はじめに
 2.  プロジェクトステージの概要
 3.  何をマネジメントするか
 4.  プロジェクト計画に関連する主要な問題点
 5.  プロジェクトマネジャーの役割と責務
 6.  プロジェクトマネジャーの資質
 7.  プロジェクトで使用することば
 8.  外部への依頼範囲
 9-10. FS(Feasibility Study)ステージ
11-13. 基本計画(概念設計)ステージ
14-16. 基本設計ステージ
 17. 発注方式
 18-19. 詳細設計ステージ
 20-21. 製作・施工ステージ 
 22-23.
 検証ステージ【その1~2】

24. 検証ステージ【その3】
(1)検証ステージのプロジェクトマネジメント概要
 プロジェクトには、プロジェクトの各ステージにおいて多数の課題があるが、検証ステージにおいてはプロジェクトが重大な変更を受ける可能性がある。検証ステージの作業が終了しても、それでプロジェクトが成功したということにはならない。まず、第一にプロジェクトの品質を、第二にプロジェクトのスコープ、スケジュール、コストが、目的を達成したかという点が重要である。
 検証ステージにおいて重大な変更を受ける可能性として、一般的には以下のような要素がある。
・機器/装置の納期の遅延
・ 工事の遅延
・ リソース割り当ての混乱
・ 要員の交代
・ 文書の欠如
・ テストの失敗
 これらの事象は広範囲に影響するため、このような事象が発生しないように、プロジェクトマネジメントを適切に行う必要がある。

 プロジェクトの検証ステージでの変更は、その影響を慎重に評価した後に実施すること。また、検証ステージにおいても、他のステージと同様なプロジェクトマネジメントを実施すること。一般的には、設計や製作・施工ステージではプロジェクトマネジメントの大部分をコントラクターに依頼しているが、検証ステージでは製薬企業側の関与する部分が大きく、したがってプロジェクトマネジメントについても製薬企業がかなり主体的に行う必要がある。特に、検証ステージの後半では製薬企業単独でプロジェクトマネジメントをしなければならないので、留意する必要がある。主な項目は以下である。
 ・ 計画と照らし合わせたスケジュールと予算のレビュー: 予備費の追跡、
   およびスケジュールバッファの消費状況を管理する。
 ・ リスクレビュー: 品質、安全、プロジェクトリスクと事業リスクなどの
   レビューと、リスク低減計画のトレースを行う。
 ・ 現場でのビジュアル・レポート: テストチームをとりまとめ、それぞれの
   業務に必要な情報をビジュアル的に展開し、管理、報告を行う。
 ・ マネジメント・レポート: ステークホルダーに重要なメッセージを伝達する
   ためのワンページ・アプローチを使用する。


(2)教育訓練
 検証を実施するにあたり、試運転操作のための教育訓練を要員に対し行う必要がある。一般的には、水試運転まではコントラクターにより操作し、模擬液試運転以降は製薬企業による操作が多いが、スコープはあくまで当初の契約しだいで、これに限ったわけではない。
 
水試運転:API、バイオ医薬設備、一部の製剤設備等の液体プロセスについて、医薬原料/副原料等の液体の代替として、水を使用した試運転、水だけではなく、空気、窒素等の気体を使用した試運転、および空運転による総合的なテスト等をいう。

模擬液試運転:API設備等の液体プロセスについて、一般的には水試運転終了後、医薬原料/副原料等の液体の代替として溶媒、溶剤を使用した試運転。あるいは液体だけでなく、固体プロセスについてはプラセボを代替とした試運転までを含む。

 また、検証ステージの後半において、運転開始前のマネジメント・サポートの一部として、要員に対する教育訓練を行う。さらに、標準作業手順書、保全手順書、操作ガイドラインなどがプロジェクト外の組織に受け入れられ、その組織のドキュメントとして統合されるまではプロジェクトは成功とはいえない。プロジェクトの技術メンバーは、機器/装置の操作、ITシステムの管理、機器類のメンテナンス、計器校正などを行うための技術的手順書の作成に長けているため、これらの教育訓練もプロジェクトメンバーが実施するのが最善である。これについてはプロジェクト初期に計画、予算化し、そしてスケジュールを作成して実行すること。

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執筆者について

星野 隆

経歴 1971年3月大阪大学工学部機械学科卒業後、同年4月武田薬品工業(株)に入社。2014年3月の同社退社までの間、同社および同社の関連会社における建設工事において、プロジェクト業務に携わった。プロジェクトの種類としては、医薬品、ビタミンバルク、調味料バルク、化学品、農薬等の生産施設をはじめ、研究所の建設にも携わった。また、国内外のプロジェクトや、他社との共同プロジェクトにも参画した。また、メンテナンスやユーティリティ部門のマネジャーの経験もあり、総合的なエンジニアである。
社外の活動としては、ISPE(国際製薬技術協会 : International Society for Pharmaceutical Engineering)の日本本部理事、常任理事を歴任。日本プロジェクトマネジメント協会理事。
現在は、個人コンサルタントStar Enterprise(プロジェクトマネジメント、エンジニアリング、イベント企画)。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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