ゼロベースからの化粧品の品質管理【第32回】

―化粧品GMPで不備となり易い事項 バリデーションの扱いについて―

 化粧品GMPについて、多くの方が要求事項の解説をされています。そんな中で、改めて要求事項を解説することは僭越ですので、少し見方を変えて実効性の面から疑問を感じている事項についてお話させて頂いています。従って、ISO22716の要求事項としてはお話させて頂くレベルまでは求められていないと指摘を受けるケースも間々あります。しかしながら、品質事故を起こさないで高い品質の商品を提供することがGMP体制を整えることが本来の目的ですから、お話させて頂く内容は失敗コストの抑制や高い品質保証の確保につながる事項のため実務面からは必要であると考えて下さい。従って、民間認証を得る面からは必要ないレベルの事項もありますが、実務者レベルからは知っておくべき事項として捉えて頂きたいと思います。
 そこで今回は、化粧品GMPにおけるバリデーションの扱いについてお話します。その背景としては、化粧品GMPではバリデーションは求められていないことを理由に、本来求められている品質リスクに対して根拠が曖昧なまま洗浄手順や殺菌手順が定められているケースが散見され、外部からの指摘は受けていないとの回答がえられるものの品質保証面からは不備であると従来から考えているからです。文献で示されていたとか、洗剤メーカーの推奨に従っている、という回答でも根拠と言えば根拠になります。そのため、査察時には一応はOKとされているようです。しかしながら、洗浄方法や殺菌手順がどのレベルまで保証されるものか把握されていない場合には、微生物汚染の問題や交差汚染による異臭発生の問題に対して問題ないとは言えないため要注意です。
 確かに化粧品では医薬品のようなバリデーション管理体制は要求されていません。しかし、品質リスクマネジメントの観点から見てみると、自社の実態を把握した上で手順を決定し、手順書が制定されていない場合には、自社における品質リスクとその対策が取れているとは言えませんので、バリデーションの考え方に基づき手順書が整備されていることが重要と考えます。
 そこで、バリデーションに関して化粧品GMPにおける要求事項の状況を確認すると共に、GMP省令が改訂され医薬品におけるバリデーションの要求環境が変化していますので、この論点から化粧品におけるバリデーションの扱いについて考えたいと思います。

1.ISO22716におけるバリデーションの要求について
 ISO22716の要求事項では、医薬品におけるGMP 省令のようなバリデーションという言葉とその要求事項は示されていません。しかしながら、ISO22716の用語および定義の中でもバリデーションの要求に相当する記述があります。

<ISO22716におけるバリデーションの要求に準じた記述>
  1. 清掃:一定水準の清浄度および外観を確保する全ての作業⇒一定水準の根拠は?
  2. 工程管理:製品が定められた判定基準を満たすように、工程をモニタリングし、必要に応じて調整を行うために・・管理⇒判定基準が満たされていることの検証は?
  3. 消毒:設定された目的に応じて・・・表面の微生物を減少させる⇒消毒作業が求める水準は?
  4. 衛生管理プログラム:製造所のニーズに合うように設定すること
  5. 機器の据付け:機器は・・品質リスクをもたらすことのないように設置⇒品質リスクとその対応状況の確認は?
  6. 原料および包装材料:最終製品の品質に関連して定められた判定基準に合致すること⇒最終製品の品質に対応した原料、材料の判定基準は?
  7. 生産で使用する水の品質:モニタリングにより水質を確保すること⇒品質を確保するための適切なモニタリング方法は?
  8. 保管:適切な条件下で適切な期間保管する⇒適切とは?
  9. 試験:管理は適切で利用可能な所定の試験方法⇒適切な試験とは?
  10. 変更管理:十分なデータに基づいて⇒十分なデータとは?

 上記のように、要求事項はなんとなくスルーしてしまいがちですが、それぞれバリデーション的な要求があることが確認できます。
従って、化粧品においてもGMP省令の要求事項の理解は必須で、バリデーション管理体制の確立までは必要ないと言えるものの、医薬品におけるバリデーションの要求事項を理解し、体制を整えることが必要と考えます。実際の運用に当たっては、対応レベルは個々に定めた手順や管理値について根拠を示すことが出来るレベルで十分で、ISO22726の中ではバリデーションは要求項目としてはありませんのでバリデーション手順書まで整える必要はないのではないかと考えます。

2.GMP省令の改訂の概要
 次に、医薬品におけるバリデーションについて、GMP省令に基づき確認します。GMP省令は、令和3年4月28日付けで改訂(薬生監麻発0428 第2号)されています。この改訂では、バリデーション基準が廃止され、バリデーション指針となりました。バリデーション指針では、バリデーションを実施しなければならない事項には下記の事項が定められています。あくまでも指針ですので、品質リスクマネジメントの面から自社にあった形でバリデーションを実施することが必要です。

<GMP省令に基づくバリデーション実施に関する指針>
  1. 製造設備、作業所の環境制御設備:適格性評価(DQ,IQ,OQ,PQ)
  2. 製造用水(製造設備及び器具並びに容器の洗浄水を含む)を供給する装置又はシステム、作業所の空調処理のための装置又はシステム等の製造を支援する装置又はシステム(計測器を含む)
  3. 製造工程(保管を含む):プロセスバリデーション
  4. 製造設備の洗浄作業:洗浄バリデーション
  5. 原料、資材及び製品(中間製品を含む)の試験検査の方法(当該試験検査のための装置又はシステムを含む):分析法バリデーション

 医薬品では、製造所において医薬製品に係る製品の品質リスクを特定し、製造手順等に対して科学的な評価及び管理を確立することが求められています。一方、化粧品では、ISO22716の要求内容は2007年に制定されたままでアップデートされていません。従って、医薬品のように品質リスクアセスメント従ったリスクの認識は要求されていません。そのため化粧品GMPでは制定後の社会的な状況変化に必ずしも対応していないため、医薬品GMP省令で要求されている最近の状況に対応した要求事項については、化粧品においても品質リスクマネジメントの考え方を取り入れて体制を整えることが必要ではないかと考えます。勿論、各社の化粧品製造所の品質要求への対応レベルは様々ですので、品質リスクの認識のレベルも様々にならざるを得ません。しかしながら、品質リスクを認識し対策を講じ、PDCAサイクルを回して品質保証体制を充実させることが重要で、この活動を通して根拠ある品質体制が整うではないかと考えます。

 

 

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