再生医療等製品の品質保証についての雑感【第49回】

第49回:バリデーション設計の考え方 (5) ~ バリデーションマスタープラン? (1)


はじめに 
 前回に引き続き、バリデーション設計について、雑感を述べさせていただきます。バリデーション活動は、実施するプロセスが期待する結果を示すことが予測(確信)できる妥当性の評価であり、その実施内容は後出しでは成立しません。細胞加工製品の工程設計は、その手順が煩雑であるため、工程開発(培養方法・手順の解析)を含めた、工程設計のできる限り早い段階で、ライフサイクルを通しての製品品質の確保に直結するバリデーション設計群をまとめ、検証を実施することが重要です。
 ちなみに、「工程開発」とは、再現性ある製造手順の構築(工程設計)を行うために、細胞の気持ち(不安定性)を理解する、細胞制御技術の開発と定義しています。当研究室では、「細胞加工設計」とも呼んでいます。本コラムではあまり取り上げない内容ですので、ご興味のある方は、紀ノ岡先生が行う社会人向け「細胞製造ことづくり講座 細胞加工設計コース」をご参照ください..宣伝でした (笑)。

● バリデーションマスタープラン(VMP)...のようなもの
 プロセスバリデーション(PV)とは、以前にお話しした通り、設定した許容条件の下で稼動する工程が、目的とする品質に適合する製品を恒常的に製造するために妥当であることを確認することで、PVの検証対象は、製品(プロセスに対するアウトプット)ではなく、プロセスが「目的とする品質の製品を再現性良く(恒常的に)製造できる能力」があるかを検証します。他方、細胞加工製品においては、この「設定した許容条件の下で稼動する工程」は、使用する容器のサイズや動作の違いが生じる工程手順の変更を行った場合、プロセスの再現性を検証できても、製品の同等性が確保できていることを説明し難くなることが生じると考えます。
 そのため、細胞加工製品のライフサイクルマネジメントでは、あらかじめ、治験製品準備から商業製造終了までを通じて、製品の同等性が確保できることを前提とする、複数の工程による許容条件を準備・検証しておくことが必要となると考えます。これは、一番近いと考える活動で表現すると、「バリデーションマスタープラン(VMP)」のようになると思います。VMPとは、バリデーションの対象範囲が広く個別の計画書が複数ある場合などに適用する、「バリデーション全体を総括したマスタープラン」のことです。治験製品から商業製造を含む製品のライフサイクルマネジメントが1つのプロジェクトであると考慮した場合、プロジェクトに含まれるバリデーションの対象とその概要、スケジュール等を考慮できるのは、筆者は、現状ではVMPが最もイメージに合致する文書であると認識します。
 一方で、既存の考え方との齟齬、違和感も生じています。具体的に、治験製造と商業製造の工程群の適格性評価について、生産設備の経年変化のように、1つのプロジェクトとしてまとめることが妥当かと言われると、非常に悩ましく、まだ適切な回答はありません。ただ、治験製品と生産期間中の全ての商業製品が常に同じもの(同等品)であることを説明するためには、商業製造において、常に治験製品と同等の(有効性を有する)製品が実現できていることが、製品のライフサイクルにおいて想定される全てのプロセスにおいて妥当性が検討されていなければ、製品品質にプロセスを含む細胞加工製品においては、製品承認後の変更管理が困難になると考えます。
 本稿では、仮に、「治験前に変更管理計画に資する製品のライフサイクルを通じたプロセスの一貫性に関する設計をまとめた『VMPのようなもの』」と、主旨を汲んでいただければと思います。一見矛盾しているようにも感じるのですが、筆者がテーマとする「治験前に実施する工程設計」を前提とすると、同様に、治験前にバリデーション設計を並行することが必要となり、製品のライフサイクルマネジメントを1つのプロジェクトとして、VMPのイメージに到達しています。もちろん、実施するのは設計(計画)のみで、実際のPVは実製造時に行うと考えますが、『予測的バリデーション』については、予め(開発段階で)検討しておく必要があると想定します。

 


 

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