医薬生産経営論【第2回】
日本国内で製造するとコストが高い。それは日本のインフラや諸々の制度が高コスト構造だからだ。
賃金、電力などのエネルギー費、高速道路料金、法人税率など。しかも、台風や地震や津波がある。
こうした発言を、「耳にタコができる」くらい、私はこれまでの人生において聞かされた。
つくづく、私の人生は不幸であったと思うし、アンフェアな差別に耐えなければならなかった。
こうした発言は、他社や、新興国の医薬品企業の製造コストを十分に承知したうえでなされるべきであるが、決してそうではない。他社の原価情報は絶対に入手不可能だし、新興国では正確な原価計算がなされていない企業も少なからず存在する。従って、経営者の感覚的かつ意図的な発言に過ぎない。それで生産部門の人たちの心が傷つくだけならまだしも、国内工場閉鎖といった厳しい現実に直面すると、彼らすべてが、魂が虚空を彷徨するような、人生の絶望感や無力感に襲われてしまう。
経営者にとって、生産部門を苛めるには、「コストが高い」と、只それだけを叫べばいいのであって、生産部門側も反論するための他社製造原価との比較データがないから、辛いけれど、じっと我慢するしか手立てがないのである。そして、こんな不毛の議論、労力の浪費をしている間に、むしろ、コストを改善するために労力と費用を使うべきなのに、なぜかしら、苛める能力には長けているが、自らはコストを改善する能力のないコーポレート部門や管理部門の人員や費用は著しく膨大化し、手が付けられない程の、官僚主義と呼ばれる「恐竜」が、いつの間にか育ってしまうのである。
私が若い頃、本社の会議室でこんなことがあった。私が生れて初めて「恐竜」を見た日である。
「工場の従業員は仕事をしなくてよい。仕事をしなくて遊んでいても給料は払う。それでも、国内工場で製造するより新興国から製品を購入した方がコストは安い」
私は根に持つタイプの人間ではないが、この発言を、この侮辱を、この年齢になった今でも忘れない。
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