【第7回】GCP-SOPライティング - GCPで必要なSOPと作成技法 -

 今回は、被験者の健康被害に対する補償の手順と治験薬管理の手順について紹介しよう。

被験者に対する補償措置に関する手順
 被験者に健康被害が生じた場合は治験依頼者に補償の義務が課せられている。これに関する条文がGCP省令第14条(被験者に対する補償措置)である。まず、似た言葉の補償と賠償の違いについて触れておこう。補償は、適法行為に係る損失補填であり、同じ被害であれば補償額は一律定額が原則だ。補償は社会的救済の意味合いがあり、コロナ禍で休業した飲食店に一律の支援金が支払われたことは記憶に新しいが、これは補償であり賠償ではない。
 一方で賠償は違法性を前提とする責任であり、例えば、スピード違反などで交通事故を起こして歩行者にケガを負わせた場合は違法行為に基づくものである。賠償額は、同じ被害であっても被害者の年齢や年収などによって個人差がある。治験で考えるならば、例えば治験薬に異物が混入したり、モニターが説明した情報に間違いや遅延があった場合は治験依頼者側の、そして過剰投与や手術ミスなどの医療過誤があった場合は医療機関側の、それぞれの違法行為に基づき健康被害を生じた被験者に対して、責任を負う可能性がある。
 治験依頼者が補償を行うのは、健康被害の原因が治験にある場合に限られる。治験に参加している期間中であっても、交通事故やポーツ中のケガなどは補償の対象にはならない。しかし、治験薬の副作用によって意識朦朧になったことがこれらの事故やケガの要因となった場合は補償の対象となり得る。

 第14条では治験依頼者に対して「補償するための手順書を定めるとともに、その履行を確保するために、保険その他の必要な措置を講じておくこと」と定めている。例えば、モニターが被験者の健康被害情報を医療機関から入手したら、治験依頼者の社内で報告するルートを決め、その情報を評価し判断するなどの手順を定めておく。さらに、保険に加入することをSOPに明記しておく必要があろう。
 多くの治験依頼者では、医薬品企業法務研究会(医法研)が公表した「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」、いわゆる医法研ガイドラインに沿って補償規程を定め、医療機関と被験者に渡す補償概要資料を作成している。これらの規定や資料のひな型が医法研のWebサイトで公開されているので、これらをSOPに取り入れることでよいだろう。
 さらに第14条では、被験者の健康被害に「受託者の業務により生じたものを含む」との記載がある。すなわちCROに業務を委託した場合であっても、その委託業務により生じた健康被害は治験依頼者に補償義務が生じるのであって、CROは補償の手順を定める必要があるが補償の義務はない。

 

治験使用薬の管理に係る手順
 治験薬は製造承認された医薬品ではないので誤って使用されてはいけない。それゆえに治験薬の容器又は被包に「治験用」と明記しなければならない。この他にも、治験依頼者の氏名や住所、製造番号などを記載しなければならないことがGCP省令第16条(治験薬又は治験使用薬の管理)第1項に定められている。
 これとは逆に、治験薬の容器と被包に記載してはならない事項というのが同条第2項に定められている。記載してはならないのは、予想される販売名や効能効果、用法用量であり、治験薬はまだ製造承認されていないことと、承認された後の販売促進に繋がらないようにということである。
 しかし非盲検試験において既に市販されている医薬品を治験薬として使用する場合は、市販薬との取り違えを防止するための適切な措置を講じておくことで、使用する治験薬に第16条第2項に掲げる事項が記載されていてもよい。また非盲検試験以外にも、評価者盲検で実施する二重盲検試験、単盲検試験、二重盲検期間から継続して実施する非盲検期間のある試験で、被験者又は実施医療機関の担当者がどの薬剤であるか識別できる状態にある治験薬を用いる場合にも、同様に記載されていてもよいことが本年(令和5年)1月の事務連絡で周知された。
 また、人道的見地から実施される治験、いわゆる拡大治験を実施する場合は治験薬の表示の義務が一部減免されているので、拡大治験を実施することが予測される治験依頼者では、SOPの記載にこれらを反映しておいたほうがよいだろう。

 治験使用薬の受領、取扱い、保管、管理、処方、返却、処分などが適切で確実に行われるために必要な指示を記載した「治験使用薬の管理に関する手順書」、いわゆる治験薬管理手順書を作成して実施医療機関に交付しなければならないことがGCP省令第16条(治験薬又は治験使用薬の管理)第6項で定められている。さらに必要に応じて、治験薬の溶解方法その他の取扱方法を説明した文書を作成し交付することが同条第7項に記載されている。治験薬管理手順書の作成手順は、治験実施計画書や総括報告書の作成手順を記述するメディカルライティングのSOPの一つとして開発担当部門で作成してもよいし、治験薬GMP部門で作成しても良いだろう。

 

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