新・医薬品品質保証こぼれ話【第23話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

「収益性」が医薬品不足解消の鍵

この数年の後発医薬品(以下、「後発品」)を中心とする“医薬品不足”は回復に向かうどころか、益々、深刻化しているように見えます。この問題が顕著となり、社会問題として注目されるようになった直接の原因の一つとして、医薬品製造所における違法製造による医薬品回収やそれに続く業務停止処分があげられますが、その背景には、こういった状況を誘発する後発品の使用促進などの政策を含む構造的な問題があることはこれまで述べてきたとおりです。

上記のような回収や業務停止を含む行政処分が大手の後発品企業に下され、長期間生産が止まると多くの品目に欠品が生じる事態となり、同時にその企業の業績が悪化します。こういった企業が業務停止期間を経て経営の立て直しを図る場合、先ずは経済収支、つまり、採算性を確保するために必要な要件を整理することから始まり、多くのケースにおいて最初に行われるのが人員と生産品目数の縮小です。銀行等から融資を受けるにしても、こういった内容を根拠とした経営立て直しの計画書の提出が必要となります。すなわち、人件費を削減し、不採算品目を生産中止にするなどして、“収益性”確保の根拠を説得力のある内容で示す必要があります。この流れの中に生じる“不採算品目の生産中止”が新たな欠品を招き、結果として医薬品不足が拡大するといった悪循環を招きます。

このように、医薬品回収や業務停止は単にその企業の業務が一時的にストップするという問題ではなく、安定供給にさらなる影を落とすことを認識する必要があり、特に、その企業が大手であればあるほどその影響も大きいということを念頭においた慎重な対応が求められます。この点において、回収のあり方や行政処分の措置内容には、医薬品の安定供給という医薬品産業の最重要課題を障害しないことに十分配慮することが大切となります。例えば、市場の医薬品を減少させないために、品質に問題のない医薬品は回収不要とし、違法製造への罰則はこれと切り離して考えるといった対策が有効と考えられ、これに関する具体的な法整備が急がれます。

“収益性”確保の重要性は上記のような企業の経営再建に関わる場合だけではなく、日常の医薬品生産活動においても留意すべき重要事項であることは言うまでもありません。そもそも、現在の後発品生産の多くを担っている受託製造所などの収益性が悪いことが、製造工程や試験検査における様々な品質トラブルや承認事項逸脱を惹起していることを認識し、重く受けとめる必要があります。必要な人材の確保や、実効性のある品質システムの構築や教育訓練、また、余裕のある生産スケジュールの下での生産などが行えていない製造所が多いのも、この収益性と深く関係していることは改めて言うまでもありません。このように、医薬品製造所にとって“収益性の確保”は“品質の確保”と同等に重要であり、言わば、“医薬品の安定生産の両輪”と言えるものです。

従って、医薬品不足解消策の重要な切り口の一つとして、欠品や限定出荷の根底にある“収益性”の問題を強く認識し、これを障害する要因を洗い出し、そこに改善の手を打つことが有効と考えられます。この点において、先ず、現在の薬価改定ルールを根本的に見直す必要があることは明らかです。薬価は、開発・原材料・生産などのコストを基礎とした採算性、品質への信頼性や製剤付加価値、医療への貢献価値といった合理的な根拠の下に評価・算定し、医薬品企業の継続性と安定供給の確保のためには、一旦、決められた薬価は引き下げないことを原則にすべきです。医療費抑制のために毎年引き下げられる現行制度は、企業の収益性を阻害し弱体化させ、安定供給の問題だけなく創薬や海外企業の日本市場参入意欲といったところにも影響が出ていることはすでに周知です。こういった問題を官民の関係者はもっと重く受け止めて、必要な対策を考えることが大切です。

“収益性”を阻害する要因としては、薬価制度のほかに“同効異名”の後発品の乱立が挙げられます。これが市場における過当競争を招き医薬品の実勢価格を引き下げる原因となり、現行制度の下に毎年薬価の引き下げが行われ、収益性の悪化に拍車をかけるという構図が形成されています。後発品の“乱立”は“共同開発”の容易さと、無制限に参入可能な今の施策に源を発することはご承知のとおりです。現在の規制においては、承認時の約束としての5年間の供給義務を果たすために、収益性を度外視して生産を継続する品目も生じます。こういった状況も収益性に影響することから長く続けられず、やがて、承認の取り下げ(品目廃止)を招き、これがさらなる医薬品不足につながっていきます。このように、現在の後発品をとりまく行政施策は、総じて、供給不安を招来する仕組みになっていると言っても過言ではないでしょう。
 

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