【第5回】GCP-SOPライティング - GCPで必要なSOPと作成技法 -

 今回は、治験依頼者が作成しなければならない治験実施計画書と治験薬概要書の作成に関するSOP、そして治験責任医師が作成しなければならないとされている説明文書の作成に関するSOPについて紹介しよう。

治験実施計画書の作成手順
 GCP省令第4条(業務手順書等)で、治験依頼者は「治験実施計画書の作成・・・に関する手順書を作成しなければならない」と記載されている。GCP省令の前身である旧GCPの時は、治験実施計画書を作成するのは治験依頼者ではなく、治験を総括する立場の治験総括医師と呼ばれる医師だったが、現行のGCPでは治験依頼者の責務となった。
 さらにGCP省令第7条(治験実施計画書)第1項でも「次に掲げる事項を記載した治験実施計画書を作成しなければならない」と記載され、ここでは治験実施計画書に記載すべき事項が箇条書きで13項目並んでいる。そして同条第1項の解説(ガイダンス)では「治験実施計画書(改訂版を含む。)に通常含まれているべき具体的事項については、中央薬事審議会答申の10を適宜参照すること」と記載されており、中央薬事審議会答申(平成9年3月13日中薬審第40号)、いわゆる答申GCPを参照することになっている。なお、医療機器GCPでは、答申GCPではなく「ISO14155:2020 の附属書Aを参照すること」となっており、また再生医療等製品GCPでは「中央薬事審議会答申の10又はISO14155:2020の附属書Aを適宜参照すること」という記載である。
 治験依頼者は、治験責任医師と①治験実施計画書の内容、②当該治験実施計画書を遵守することの、2点について同意を得る必要があり、その手順は治験実施計画書を改訂する都度必要である。なお、第7条では「治験責任医師の同意を得なければならない」と記載されているが、同条ガイダンスでは「治験責任医師と合意すること」と記載されている。
 さらにガイダンスでは、症例報告書の見本を作成する場合もこれの合意が必要である旨の記載があるが、省令では症例報告書については触れていない。治験実施計画書の作成に関するSOPでは同意と合意の違いにこだわる必要はなく、また症例報告書の見本については治験実施計画書と同様に治験責任医師の同意又は合意を得るのが一般的である。

 多施設共同治験の場合は、施設に特有の情報は治験実施計画書の分冊として施設ごとに作成しても良いとされ、実施医療機関の名称及び所在地、治験責任医師の氏名、担当モニターの氏名及び電話番号等は分冊に記載することができる。各実施医療機関の長に対しては、当該分冊のうち、当該実施医療機関に係るもののみを提出することで良い。
 しかし、この治験実施計画書の分冊については平成23年10月のGCP運用通知(現在のGCPガイダンス)の改正で記載されたものであるが、このような作成をしている例は(ほとんど)見ることがないので、SOP作成時にあえて分冊に関する手順を盛り込む必要はないだろう。
 治験実施計画書に限らず他のメディカルライティングでも同様なのだが、作成経緯を規制当局の調査で確認されることがある。すなわち、いつ誰が案を作成し、いつ誰が点検し、いつ誰が修正し、いつ誰が最終化したのかという経緯を残す必要があり、その手順を明確にしておく必要ある。
 

治験薬概要書の作成と改訂に関する手順
 治験実施計画書と同様に、治験薬概要書の作成にあたってもGCP省令第8条(治験薬概要書)第1項で「次に掲げる事項を記載した治験薬概要書を作成しなければならない」と記載し、ガイダンスで「中央薬事審議会答申の11を参照すること」と記載されている。医療機器GCPでは治験機器概要書と呼ぶが「ISO14155:2020の附属書Bを参照すること」、そして再生医療等製品GCPでは治験製品概要書であるが「中央薬事審議会答申の11又はISO14155:2020の附属書Bを適宜参照すること」とそれぞれ記載されている点も、治験実施計画書と同様である。
 治験薬概要書は「第5条の試験により得られた資料並びに被験薬の品質、有効性及び安全性に関する情報に基づいて」作成されることになっている。「第5条の試験」とは、「治験の依頼をしようとする者は、被験薬の品質、毒性及び薬理作用に関する試験その他治験の依頼をするために必要な試験を終了していなければならない」という、これだけの非常に短い条文で示されている試験のことだ。ここに書いてある「治験の依頼をするために必要な試験」とは、物理的化学的性質、性状等に関する理化学的試験等と安全性、薬理、吸収・分布・代謝・排泄(ADME)等に関する非臨床試験を指している。そして、「試験を終了していなければならない」と言っているが、必要な試験の実施のタイミングについてはICH M3で議論され、国内でもガイドラインが発出されている。

 この「治験の依頼をするために必要な試験」である非臨床試験と臨床試験の成績をまとめた治験薬概要書をSOPに従って作成することが第8条第1項ガイダンスに記載されている(図1)。そして治験薬概要書の内容に関しては、そのデータを提供した専門部門の承認を得ておかなければならないことが答申GCP11に書かれており、すなわちICH-GCPにも専門部門の承認という記載があるのだが、GCP省令とガイダンスにはこの記載はない。したがって、データ提供部門の承認記録については、ICH-GCPを念頭に置くのであればSOPに盛り込んでおいた方が良いが、J-GCPだけに基づく治験を対象にするのであればそれほど気にするほどではないといえよう。
 治験薬概要書に記載した内容に関して新たな情報が得られた場合には、手順書に従って治験薬概要書を改訂しなければならない。開発段階に応じて、また被験薬に関連する新たな情報が国内外から得られた場合等には、やはり手順書に従って少なくとも年に1回治験薬概要書を見直さなければならないこととされている。すなわち「手順書に従って」作成し、「手順書に従って」見直すことが必要だということであり、その旨の手順をSOPに盛り込んでおかなければならない。
 いわゆるマスタープロトコールによる治験のことだが、複数の被験薬を用いる治験を実施する場合において、自らが製造販売する予定の被験薬と併用するものの、他社が製造販売している等の理由で、治験薬概要書を準備できない場合もある。そのような場合は、当該被験薬の最新の科学的知見を記載した文書(添付文書又は注意事項等情報、インタビューフォーム、学術論文等)を当該被験薬の治験薬概要書の代わりとすることができる。
 

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