化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第11回】

クリーミングを防ぐには? 細かい油滴の作り方

 化粧用のクリームやファンデーションから油が浮いてきり、水が染み出してくる「クリーミング」、商品開発の現場では最も嫌われる現象の一つと言えます。最先端の皮膚科学や界面化学の最先端の技術を盛り込んだスキンケア/メイクアップ化粧料も、なんだかよく分からない謎の液体が染み出てくるようでは、一気にその魅力が落ちてしまうためです。

 それでは、このクリーミングを防ぐために、どんな工夫がされているのでしょうか? 前回ご紹介したストークスの式によると、クリーミングを防ぐためには水中に分散した油滴の大きさと水相と油相の間の比重差を小さくし、連続相である水相の粘度を大きくすればよい、とされていますが、なかでも水滴の大きさが最も有効な手段だとされています。なにしろ、水相中の油滴が浮上する速度は粒径の2乗に比例するので、理屈上は大きさを半分にすればクリーミングの速度は4分の一、10分の一にすればなんと100分の一にもなるのでした。

 それでは、エマルションの油滴、どうすれば小さくなるのでしょうか?一番単純なのは、水相の中に油相を投入する乳化の過程で、プロペラをガンガン、高速で回転させる方法ですが、こんな力業ではエネルギー効率が悪いので、高圧力下で攪拌時に油相に強いせん断力をかけ、油相を効率的に細かくする高圧ホモジナイザーや小型の容器の中に少し小さい攪拌羽根を装着した薄膜旋回型のミキサーが開発され、利用されています1,2)

 しかしながら、これらの装置はやはり高額で、気軽に導入できるものではありません・・・。そこで、化粧料のレシピを作る処方設計者には、中身の組成を工夫して数か月から時には数年間放置されても油滴が染み出てくることのないものを調製することが求められます。

 そんな時に、まず我々がチェックするのは、配合している界面活性剤の種類だったりします。何百種類もある化粧料用の界面活性剤は、みな分子内にアルキル鎖と親水基があり、表面張力を効率よく下げてくれたりしますが、実はそれぞれに個性があって、最適のものを選択し、さらに組み合わせて配合しなければ、十分に細かい油滴は得られないのです。

 そんな課題を突き付けられた時に使われるのが、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す親水性親油性バランス、いわゆるHLBです。界面活性剤は水と油の両方に親和性を持ちますが、ちょっとした分子構造の違いによってどちらかといえば水になじみやすいものと、どちらかといえば油になじみやすいものがあります。このちょっとした違いがなかなか大切で、例えば同じくらいの量の水と油が入っている容器に、どちらかと言えば親水的な界面活性剤を添加するとほとんどの場合に水相中に油滴が分散したO/W型エマルションができ、どちらかと言えば親油的な界面活性剤を添加すると油相中に水滴が分散したW/O型エマルションができるのです。この界面活性剤の個性はBancroft則と呼ばれており、わたしもいろいろな界面活性剤を使ってたくさんのエマルションを作ってきましたが、ほとんどの場合に成り立つ、便利な法則だったりするのでした3)
 

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