再生医療等製品の品質保証についての雑感【第45回】

第45回:バリデーション設計の考え方 (1) ~ 細胞加工製品製造のバリデーションにおける原点

はじめに
 今回よりバリデーション設計について、雑感を述べさせていただきます。セミナー等をご依頼いただく折には、必ずキーワードとして求められる用語です。製造としては当たり前かつ重要ですので、早々に触れようと思っていましたが、再生医療等製品の製造設計においては、前回お話ししたような、理解していないと致命的(?) となる工程設計に関わる課題や、低い工程運用の柔軟性に関わる課題のような難しい案件が多々あり、先にそれらについての雑感を整理していたら、いつのまにか本連載開始から3年半もの時間が経過しておりました。

● バリデーション活動の目的
 バリデーション活動の最終目的は、言うまでもなく、製品のライフサイクルを通じての安定供給です。バリデーション活動では、工程内、工程間、製造時期を通じて、全ての製品が同じもの(予め許容されたばらつきの範囲内)であることを保証するための施策を実施する必要があります。そのためには、全工程においてインプット(原料、中間製品および資材)が常に同じである(目的が達成可能な受入規格を有する)こと、各プロセスの手順が同じである(検証可能なパラメータ制御で再現性を有する)こと、および、それらが常に安定である(検証可能な再現性を有する)ことが不可欠です。
 理論上、同じインプット、同じプロセス(手順)で実施すれば、算数の答えと同様で、常に同じアウトプット(製品品質)が達成できるはずですが、実際の製造ではそう簡単にはいきません。その理由は、ご存じの通り、インプットおよびプロセスは、製品のライフサイクルを通して「同じ」とすることが容易ではないからです。バリデーション活動では、同じインプットが導入(受入)できることを確保(管理)しつつ、各プロセスが「安定」であることを検証する必要があります。具体的には、作業者や機械装置が常に同じパラメータを達成できるように、維持管理(部品交換、機器校正、教育訓練など)を実施し、予め適格性を評価した後に、各プロセスの検証を実施します。また検証結果の保証期間は、作業者の変更や機械部品の経年劣化などで恒常的に同じとはならないため、一定期間毎で、繰り返し実施を行う必要があります。
 ここで重要となるのは、上述の通り、検証可能なプロセスパラメータ制御によって、工程設計で予め定めた手順より常に同じアウトプットが得られる(再現性を有する)ことです。バリデーション活動は、プロセスにおいて、プロセスパラメータが繰り返し再現できる(安定性を有する)ことを『予測』し、その検証を実施することです。したがって、適切なバリデーション設計を達成するには、頑健性のある工程設計を有することが前提となります。
 またインプットの原材料や工程資材等においても、結果として、同じ管理の考え方が不可欠となります。インプットとは、当たり前なのですが、「前工程のアウトプット」です。したがって、その品質の保証には、同様のプロセス検証が必要になります。これらの数珠つなぎがトレサビリティであり、調達時に供給機関の試験成績書での受入を許容するには、予め供給機関が上記に相当するマネジメントを適切に実施できることを確認、必要に応じて定期的に監査する必要があります。(製造者が、供給機関の責任だから関係ないとは絶対に言えないですし、それで自機関に損失を与えたら背任行為でしかありません。)
 バリデーション活動では、製品の安全性と有効性を担保するため、各々のプロセスにおける、無菌性保証(プロセスシミュレーション)と質の保証(プロセスバリデーション)の実施が要求されます。前者は以前(第39回)にお話ししましたが、無菌性の確保は、製品の最大の安全性保証であり、多くの製品を通じて共通項が多いので、比較的詳細な規制要件が示されており、それらを鑑みつつ、適切にマネジメントを実施しなければいけません。一方で後者、質の保証は、製造者(組織)によって対象となる製品および品質目標が異なるのでケースバイケースです。規制側も、製造者が製品を適切に製造できることが前提条件としているので、詳細な規制要件が作成されることは少ないです。しかしながら、再生医療等製品(細胞加工製品)のバリデーション設計では、製造としての実生産の経験が少ない(技術が未熟である)ことより、ここに多くの課題が生じていると認識します。

 

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