医薬品のモノづくりの歩み【第13回】

「モノづくりカルチャー」と安定供給(1)

 本連載では、医薬品の「モノづくり」のこれまでの流れを振り返りながら、「モノづくりカルチャー」について解説してきました。
特に、工場において「モノづくり」のパフォーマンスを向上させていくためには、基本要素であるQ:品質、C:生産性(コスト、D:安定供給、T:技術(安全衛生、環境保全を含む)の基本要素をバランスよく高めることが大切であることに触れてきましたが、最近の国内での医薬品製造を取り巻く動向を踏まえて、前回では、特に品質にフォーカスを当てた「モノづくり」と品質について、クオリティカルチャーにも触れながら言及してきました。
今回から、「モノづくり」の他の基本要素について話を進めていきます。

 まずは、「安定供給(Delivery)」についてですが、‶「モノづくり」と安定供給とは、″を考える時、医薬品の特殊性を認識する必要があります。
医薬品は、人の命や健康に直接かかわる大切なもので、他の商品に置き換えることはできません。従って、製薬会社は、必要な時に患者さんに医薬品を届ける社会的使命と役割・責任をもっています。
一方、医薬品は製造を開始してから時間を要しますので、必要な医薬品の必要な量を必要な時に、すぐ病院や薬局に届けられるよう、製薬会社は、前もって製造しておき、一定量の在庫を保有する「見込み生産」を行うことで安定供給の責任を果たしています。
もう一つ、医薬品は多品種少量生産です。生産ラインは複数の生産ができる兼用ラインとなり、そのため洗浄、ライン切り替えなど生産以外の時間を要します。従って、生産計画を立てる場合も、在庫情報や生産ラインの稼働状況を考慮しながら、優先順位を明確にしたきめ細かな計画を立案することが大切であることです。
 では、このような特殊性を持つ医薬品の安定供給の意味するところを過去に発生した問題を振り返りながら触れていきましょう。
 2000年以降、医薬品の安定供給に対する考え方を大きく変える出来事がありました。最も大きな事件は、2011年3月の東日本大震災と言えます。東北地方を襲った地震による津波と原発の損傷による放射能汚染は、東北地方、特に福島に工場を抱える医薬品メーカーでは、工場損傷のみならずライフラインや輸送同線が寸断され、長期操業停止を余儀なくされました。その間、代替品のない医薬品の安定供給に対して官民が一体となって医薬品確保に奔走することになりました。
この経験を機会に、医薬品の安定供給に対する取り組みにおいて、以下のような変化が見られました。

(1) 代替品のない医薬品の在庫水準の見直し
社内の多品種生産している医薬品の中で、市場での代替品がない医薬品や製造リードタイムが極めて長い医薬品については、クライシス発生から生産ラインの復旧と市場に供給できるまでの期間を想定した在庫水準を高く設定することです。
(2) 生産のバックアップサイトの検討
特定の地域でクライシスが発生しても、医薬品の生産及び安定供給に支障を来さないよう、地域の異なる工場や海外生産工場の活用、外部工場資源の活用など、生産バックアップサイトの確保が検討されるようになりました。
特に市場にとっても企業にとっても重要な医薬品を他の場所でも製造できるよう複数生産ラインを確保し、非常時に供給可能とするものです。
(3) 原材料資材のセカンドソースの確保
クライシス発生地域に生産工場を持つ原材料メーカーは、災害発生により生産不能となり、必要な原材料が供給できなくなります。
従来から、コスト戦略として、原材料の供給メーカーを複数購買していた考え方が、原材料の安定確保の観点から、セカンドソース、更にはサードソースまで、複数購買の幅を広げる動きがありました。
ここでも、長納期原材料品の在庫水準を高めに設定することも検討されました。

 

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