GMP/GCTPケーススタディ【第3回】

GMP省令で規定するデータインテグリティ(第20条第2項)

 最近得たデータインテグリティ(以下、DI)に関するAuditorの指摘事例から考察します。これはGMP省令(以下、省令)第20条第2項(以下)の運用に関わるものです。

2 製造業者等は、手順書等及びこの章に規定する記録について、あらかじめ指定した者に第八条第二項に規定する文書に基づき、次に掲げる業務を行わせなければならない。
一 作成及び保管すべき手順書等並びに記録に欠落がないよう、継続的に管理すること。
二 作成された手順書等及び記録が正確な内容であるよう、継続的に管理すること。
三 他の手順書等及び記録の内容との不整合がないよう、継続的に管理すること。
四 手順書等若しくは記録に欠落があった場合又はその内容に不正確若しくは不整合な点が判明した場合においては、その原因を究明し、所要の是正措置及び予防措置をとること。
五 その他手順書等及び記録の信頼性を確保するために必要な業務
六 前各号の業務に係る記録を作成し、これを保管すること。
 

 新設されたこの条項は「省令改正案検討の経験からみるGMP省令改正のポイント」第3回のコラム及び第4回・第20回で解説しました。
 厚労科研班ではDIの概念を今回の省令に盛り込む検討をしました。背景にはPIC/S等のグローバルな動きもありますが、やはり化血研問題は影響として大きかったと認識しています。更には、省令発出の準備中にも同様な事件が複数発生したのはご承知のとおりです。これまでの省令の歴史でDIを明確にした記載はなく、今回の厚労科研班の案はそのような歴史からすると、PQS同様にチャレンジングなテーマだったわけです。化血研問題発生時、社内の薬事部門の者と議論したことがあり、不正な記録を直接的に取り締まるものは薬事法(当時)にはないことを再認識しました。法第56条の「販売、製造等の禁止」を見れば頷けるところでしょう。結果的に性状や品質が異なれば該条にかかりますが、そうでなければ法第14条(医薬品、医薬部外品及び化粧品の製造販売の承認)第2項第4号の「その物の製造所における製造管理又は品質管理の方法が、厚生労働省令で定める基準に適合していると認められないとき」を適用するものの、旧省令では裏マニュアルや裏記録を直接的に縛る表現には当たりませんでした(もっとも第7条の製品標準書で承認事項とその他の製造手順を規定した上で第8条の製造管理手順書を定めている前提で、第10条の製造指図書を作成すれば製法で相違が生じないはずで、相違していればそのどこかの段階に対して指導する余地があったといえばそうですが…)。改正省令案が厚労省にわたって省令にしてみれば、いくつかの制約を受けて結果的にご承知の表現になっているわけです。これがAuditorの認識において本質との乖離のもとになっていることも否定できません。いざ省令になってみると、よくある「あらかじめ指定した者」と「各号の業務に係る記録の作成と保管」の表現があります。省令のお決まり文句で読み手に現実性をもって伝えられているかといえば、読込みには相当程度の知識と想像力を要すると言わざるを得ません。
 この表現で、記録の作成について考察します。省令は、いわば次の業務の記録を作成するように規定しています。

 ◇ 作成/保管すべき手順書等・記録の完全性・判読性・可用性等の継続的管理(第1号)
 ◇ 作成した手順書等・記録の正確性の継続的管理(第2号)
 ◇ 手順書等・記録の正確性・一貫性・永続性等の継続的管理(第3号)
 ◇ 問題を生じた場合の原因究明及び是正・予防措置(第4号)
 ◇ その他DI関連(第5号)
 ここでAuditorから質問/要求された事例として、これら業務に対する独立した手順書(DIの管理手順書?)及びこれに関わる独立した記録(つまりは、DI記録?)を求めたというものがあります。継続的管理とは、「作成時から保管期間が満了するまで」と公布通知に書かれています。DIは「データごと」にそれが発生してから廃棄されるまでのデータライフサイクルにわたってこのような管理を要求されるもの⑴ですが、データごとにそのライフサイクル全般を網羅する独立した記録が現実性をもって作成できるでしょうか?そもそも厚労科研班では、それを意図して起草していません。事例集にもこの点が解説されていないのは、GMP管理の現場やDIを知る者にはQ&Aにするまでもない常識的な事柄だという背景もあります。第1号から第3号にある記録は、従前の体制の中に溶け込ませることが現実的なところです。
 例えば手順書では、作成時に確認者がその手順書が間違いないように確認した署名を予め特定した箇所にする、あるいはその手順書の内容を確認し、製造部門又は品質部門のしかるべき者が署名なりをするでしょう。記録でも、例えばQCの試験記録の照査や、出荷のためのQAの照査でチェックを付けるなり署名する体制をもっているところもあるでしょう。そういった個々の作業自体が記録として扱われてしかるべきです。紙の記録等にしても、PIC/SガイダンスPI 041には8章の「紙ベースのシステムに特定のデータ信頼性に係る考慮事項」には、記録の各段階でどのような作業があって、それがどうDIにつながるかが具体的に書かれており、いかにGMP活動に組み込まれるかが理解できます⑵。問題を生じた場合の原因究明と是正・予防措置にしても、製造所によっては逸脱管理の中で処理される場合もあるはずです。公布通知は当該の条項の運用にPI 041を参考にするように書かれており、監査者は製造現場のGMP活動やPI 041の内容を研究し、その上で省令に書かれる要件がどのように展開されるかを認識する必要があり、この知識が浅いために単に省令の文字面だけでDI記録を質問/要求すればOver-specの指導⑶につながるでしょう。

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