新・医薬品品質保証こぼれ話【第8話】

医薬品回収の考え方と安定供給の確保

かつて、医薬品の回収は人為ミスによる原材料の取り違え(Mix-up)や衛生管理の不備による異物混入などの汚染(Contamination)が原因で生じる品質上の問題、いわゆる、“品質不良”がその主な理由でした。そして、回収の目的は、こういったGMP対応の不備が原因で生じた“不良医薬品”を市場から撤収することにある、というのが一般の認識だったと思います。一時期、頻繁に発生した異物混入による自主回収に関しては、品質への影響の考え方や回収の是非判断が企業により異なることなどが話題に上がりました。ところが、化血研の問題以後、重大な回収事案の多くは製造や試験検査の実施状態が製造販売承認書の記載内容と異なる、いわゆる、“承認書と製造実態の齟齬”が回収の理由になっており、品質の問題はこれに付随して議論されるような感さえあります。PMDAの回収情報のページに掲載される“医薬品回収の概要”に散見される、“なお、・・・品質には問題ありません”といった表現からもこのことが窺えます。

原点に立ち返って考えたとき、医薬品回収の目的は上記のように“不良医薬品”を市場から排除し、患者や生活者の安全を確保することにあることが改めて認識されます。ところが、最近は関係法令の遵守性やデータ不正といった、いわゆる、コンプライアンス(Compliance)に関わる問題による回収が頻発し、その結果、行政の対応も品質確保のための“指導”から、法令違反に関する“監視”に重きが置かれる傾向が見られます。ここ1~2年の間に発出された関連の通知もそのことを示唆していますが、このような監視や査察の厳格化の動きは、日本のGMP行政の“性善説から性悪説への転換”という受け止め方もでき、同時に、行政の製薬企業に対する信頼性の低下をも意味し、双方にとってあまり好ましい状況とは言えません。

信頼関係は組織の種類や大小にかかわらず、人間社会のあらゆる営みを円滑に進めるための基盤であり、このことは行政と企業の間においても例外ではありません。特に医薬品は人命に直接関わる製品であり、行政と企業(医薬品業界)の相互協力がとても重要であること、また、支援や協力は信頼関係があって初めて十分に機能することを考えると、この両者間の信頼関係は大変重要です。その信頼関係が上記のように、違法製造による医薬品回収の多発により揺らいでいます。そして、その影響は製薬業界のみに留まらず、深刻な医薬品の供給不足を招き、医師、薬剤師、患者をはじめ国民全体に広がっています。

こういった重大な問題に対応する方法として、大きくは、①問題が起きないための対策を講じる、②問題が起きたときを想定し、その際の影響(被害)を最小限に抑えるための対策を講じる、の2つの考え方があり、どんな問題でも、常にこの2つの観点から対策を考えておくことが大切です。①については、これまでに発生した事案や類似の想定される事案の原因に対して対策を打つことが基本になります。②については、想定される問題の原因の特定や的確な対策が見出せていない状況下に、その問題が発生した場合に備えて被害の最小化策を考えておく、ということが基本になります。

この数年の重大な回収事案の場合、①に関しては、長い時間の経過の中で生じた様々な要因が複雑に絡み合った構造的な問題が原因と考えられるため、現時点で決め手となる再発防止策を見出すことは容易ではありませんが、根本原因と考えられるものに対し地道に改善の手を打っていく以外に方法はないでしょう。②に関しては、想定される事案に関し、被害を最小化するための措置としてあらゆる方法を挙げ、より効果的と考えられる対策を打っておくというのが基本的な進め方になるでしょう。不幸にも回収を余儀なくされる事案が発生した場合は、先ずは欠品や限定出荷の回避に向けて、回収範囲の最小化や出荷停止の必要性について科学的根拠を基礎に議論し、医療への影響の最小化に努めることが期待されます。
 

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