医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第27回】

身体の中に入れて確認する~埋植試験
医療機器の生物学的安全性試験で最もユニークな試験が、埋植試験です。

 食品や食品添加物、経口薬などの医薬品では経口投与、ワクチンや輸液などの医薬品では注射による投与、目薬や鼻薬は点眼、点鼻、口紅や口腔に塗布する医薬品は粘膜適用、タバコやスプレーなどは吸入によるばく露、そして、化粧品や皮膚に貼付するテープなどは皮膚適用です。生物学的安全性評価では、実際にその製品や原材料が、ヒトに用いられる経路における安全性を評価する必要があります。したがって、ヒトの適用経路に応じたばく露経路での試験をデザインしないとなりません。
 そう聞くと当たり前のようですが、例えばある化学物質を肌に塗布する化粧品材料に用いたいと思ったとします。その化学物質の既存生物学的安全性データを見たところ、経口投与による急性経口毒性の半致死量が2,000 mg/kgとあった場合、あなたはこの物質を使いますか。死亡する可能性がある物質だから、ちょっと使いたくないと思うかもしれませんが、食べるわけではないので、刺激性や感作性がなければ大きな問題にはならないと思う人もいるでしょう。これはつまり、皮膚に適用したデータを評価しないと正確な判断が下せないということです。また、別の例として、辛いのが大好きでピザやラーメンなどにチリペッパーを山盛りかけて召し上がる辛い物好きの方でも、眼の中に入れて刺激を味わいたいとは思わないでしょう。この場合は、ばく露のルートによる刺激反応が異なることが経験的にわかっている例です。
 このように摂取したり、適用したりする経路で、生物学的安全性は大きく変わります。したがって、生物学的安全性を評価する場合は、実際にヒトに適用するルートでばく露させた結果を確認しないと、安全性を低く見積もってしまったり、逆に安全性を過剰に見積もってしまうリスクがあります。安全性を重要視する立場では、過剰に安全性を評価してもよいのですが、有用性を考えると、いきすぎた安全性評価のためにせっかくの有用性がスポイルされる結果になりかねません。

 医療機器には、人工関節や人工腱、人工骨やセメント、血管ステント、人工血管、人工歯根、縫合糸など、実にさまざまな体内にインプラント(埋植)する医療機器があります。これらの生物学的安全性評価を考える際、やはり、実使用と同様のルートで適用し、その際の毒性反応を検索することが重要であることは上述の例からも明らかですね。
 そこで、埋植による生物学的安全性評価が、インプラントする医療機器に求められております。
「注射針も短時間だけれど、皮膚内部や筋肉内などに接触するので、埋植評価が必要なのでは?」と、疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに体内にダイレクトに入っていきますので、インプラントタイプではあるものの、接触時間としてはごく短時間であることから、埋植評価までは不要とされております。

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