モノづくりのモチベーション・マネジメント【第1回】

はじめに
 
 筆者が参天製薬に入社したのは、同社がグローバル展開を打ち出した時でありました。生産本部に配属され、GMPの強化が筆者に課せられた使命でした。欧米への医薬品販売には、米国のCGMP(current Good Manufacturing Practice)に適合する製造設備である必要がありますし、欧州へはEU-GMP(WHO GMPが基本)に適合する必要があります。筆者は、ハード面(製造設備・機器など)の対応のみならず、ソフト面(文書体系、教育訓練)の対応が不可欠であると考えました。ハード面に関しては、プラントエンジニアリングに依頼すれば、GMP適合は達成されますが、ソフト面に関しては、自らがその趣旨を理解し、計画(plan)し、実行(do)し、検証(check)し、その検証結果に基づいて行動(action)しなければなりません。
 
 その当時、参天製薬は、国内のモノづくり会社と同様、社員の経験・ノウハウはすばらしいものがあり、自信を持って製造していました。しかしながら、筆者はそこに、目指すべきもの、共通の目標、知識・ノウハウの共有化が欠如していると感じました。知識・ノウハウは個人が所有し、組織の知にはなっていなかったのです。
 
 そこで、筆者は、外部のコンサルタントの支援をお願いし、本部ビジョン、ミッション(使命)、価値観を定めることにしました。ありたい姿-ビジョンを策定し、そのビジョン達成のための使命、戦略を考え、各部門がその使命を認識し、共有し、"達成するぞ"というやる気、モチベーションというドライビング・フォースが生まれ、組織が活性化するという一連の脈動が始まるのです。
 
1.ビジョンはトップダウンではなく、ボトムアップである
 
 我々の目指すべきものは何か、どうありたいのか、まず本部社員がどのように考えているのか。また生産本部外の他本部(営業本部、研究開発本部、管理本部など)は生産本部の現状をどのように見ているのか。アンケート調査を実施しました。
 
 アンケート調査結果は惨憺たるものでした。「モノ言わぬ生産本部」「自らの考えで設備投資をしているのではなく、上からいわれたからやった」「責任感が感じられない」「生産コストを合理的に説明できない」などです。一方、本部内の部長・課長級の人達は、自分の仕事の役割を十分に果たしていると考えている。「誇り」も高く、会社に対する自らの貢献にも自信を持っている。ただ、係長・主任クラス及び大多数の本部社員は、部課長ほどは自信を持っていないという調査結果でした。この調査結果の背景にあるものは何か。部課長はこれまでの実績に自信を持っており、多数の本部社員は、上司である部課長の指示による業務指向になっているのではないかという仮説を立てました。そして、筆者は、本部社員の自主性を尊重し、個人の成長と組織力の強化を重点項目と考えました。
 
 最終的にビジョンを策定するために、アンケート調査結果の共有と自らが定めるという視点で議論できるように、オフサイトの合宿を持ちました。1日半、アンケートに基づく生産本部の現状認識とありたい姿について議論し、その結果を生産本部の宣言という意味づけで、最終日、社長の出席を求め、発表しました。その内容を図-I に示します。


図I ありたい姿ビジョン
 

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