医薬品開発における非臨床試験から一言【第22回】

2021/10/08 非臨床(GLP)

医薬品の安全性評価の課題について排泄を解説する。

尿糞中・胆汁中、呼気中排泄

医薬品の安全性評価の課題について排泄を解説します。薬物動態試験、いわゆるADMEの中で、「E」に相当する排泄(Excretion)の研究は、放射性標識体を用いた動物試験あるいは臨床試験で量的・速度的に評価し、非臨床での有効性と毒性評価をヒトに外挿します。

排泄経路の評価は、尿糞中排泄量の分析が大きな課題になります。さらに肝臓から十二指腸に分泌される胆汁排泄はトランスポーターも関与する重要なポイントになり、消化管を経てその他の老廃物(代謝物を含む)と共に糞便として排出されるか、腸肝循環として再吸収されるかを評価します。

腎臓からの排出経路では、薬物および代謝物を尿中へ排泄します。腎臓からの排泄は幾つかの機序によります。まず、血漿蛋白質に結合していない薬物は糸球体ろ過されます。次に、トランスポーターによる能動輸送では原尿への分泌も排泄になります。その後に、尿細管での再吸収によりさらに濃縮されるときに受動拡散で再吸収されて排泄されない薬物もあります。

また呼気中排泄は、14C標識体を投与し、呼気中に排泄された14CO2を吸収剤でトラップすることで、排泄量を分析できます。さらに乳汁中分泌(排泄試験項目ですが「分泌」)試験も行います。

生体(ヒト)に投与された薬物とその代謝物は、通常、糞尿中への排出過程により生体中から排除されます。この排出が完全でない場合、また遅くなると、薬物(異物)の正常な排泄速度が遅くなり、蓄積傾向を示し生体に悪影響を及ぼす可能性があります。

具体的なマスバランス(排泄)試験方法について述べます。
げっ歯類を用いた試験では、飼料と水を与えつつ尿糞を分取できる個別飼育ケージ(代謝ケージ)を用います。例えば、14C標識体をラットに投与し、最低でも3日間、最大で7日間飼育し、所定時間毎(24時間程度)に尿と糞を採取します。尿はろ過した後に試料とし、総放射能と代謝物分析を行います。糞は水を加えてホモジナイズして、総放射能と代謝物を分析します。投与放射能量(Dose)に対して排泄された放射能量を「% of dose」の単位で求めて、累積の排泄量を評価します。

非げっ歯類でも同様に14C標識体を用いたマスバランス試験が行われ、さらに臨床試験でも14C標識体を用いたマスバランス試験が行われます。ただし、臨床ではマイクロドーズ試験に代替して放射線被ばく量を抑えることも有効です。

胆汁排泄試験では、ラットを用いて麻酔下に開腹手術で総胆管にカニューレを挿入し、ボールマンケージで飼育します。麻酔から覚醒後に、必要に応じて水と餌を与え、14C標識体を臨床用量でラットに投与し、1時間単位で数時間、さらに投与後3日間程度の間に排泄される胆汁を採取して、投与放射能量に対して排泄された放射能量を「% of dose」の単位で求めて、排泄の速度と、累積の排泄量を評価します。

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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