中国違法ワクチン事件

2016/06/15 製剤

余 知暁

2016年3月中旬から、中国では違法ワクチン事件が多くのメディアで報道された。山東省済南市の警察局によると、ワクチンの違法販売を行っていた元薬剤師である厖氏とその娘が逮捕された。厖氏は2010年から、製薬会社の関係者などから、25種類の児童用及び成人用ワクチンを違法に仕入れ、他の業者や病院の関係者らに転売していた。これらのワクチンは24省市の医療機関に出回っていた。調査した結果、厖氏は、医薬品企業の販売員やフリーの「ワクチン販売者」から、使用期限切れ間近のワクチンなどを安く仕入れ、済南市で借りた倉庫で保管し、販売した。この事件に関するワクチンは全て製造許可を持っている製薬企業が製造したもので、違法販売されたワクチンはおよそ200万本、総額約5.7億元(約100億円)だった。山東省CFDAホームページに掲載した公告によると、この事件にかかわった人間は少なくとも300人ほどいる(厖氏の上流側に107人、下流側に193人)。うち、100人は医薬品企業関係者であった。
 

中国国内では国民からの批判の声が高まり、特に児童用ワクチンに対して親としての不安が広がっており、3月22日には李克強首相が徹底した調査を指示するなど、当局は対応に追われることになった。3月24日には、公安省、CFDA及び国家衛生・計画出産委員会が合同記者会見を開いた。CFDAの幹部は「ワクチンの違法販売に対しては1本も容認しない。」と強調した。
 

このワクチン事件で逮捕された厖氏は医薬品を販売する資格を持っていない。それなのに、なぜこれほど大規模にワクチンを5年間も違法販売することが出来たのか?ワクチンの製造企業はなぜ製品を資格のない厖氏に売ったのか?そして、なぜ医療機関は資格のない厖氏からワクチンを仕入れたのか?
 

中国で2005年に公布された「ワクチン流通と予防接種管理条例」によると、ワクチンは2種類に分けられている。第1類は強制的に無料で接種されるワクチンである。これは政府からの公開入札により調達される。入札のプロセスなどは基本的に開示されている。また、第1類のワクチンは全て国営の製薬企業により独占されているので、私営企業や個人では販売出来ない。一方、第2類は患者の希望により有料で接種されるワクチンである。各医療機関はメーカーを自主選択して調達している。そして、仕入れたワクチンの販売価格を自由に規定して良い。今回のワクチン事件に巻き込まれたのは第2類のワクチン製品で、当局が調査した結果では、世界中で名の知れた外資企業も巻き込まれていた。

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執筆者について

余 知暁

経歴 株式会社シーエムプラス中国リエゾンオフィス所長、GMP Platform コンサルタント。
2005年瀋陽薬科大学を卒業、同年日系大手エンジニアリング会社に入社。GMP部門のバリデーションエンジニアとして、日本において新設医薬製剤工場設立におけるバリデーション業務、DQ/IQ/OQ要領書の作成に従事。2010年上海東富龍科技股分有限公司入社。凍結乾燥機のエンジニアリング業務での通訳及び日中間における各種契約事項の調整に携わる。2013年株式会社シーエムプラスに入社。 PMDAによる中国製薬企業原薬工場GMP調査での通訳経験を複数回有し、中国語、日本語、英語と三ヶ国語を扱う。
2018年には中国CFDA(現NMPA)が主催する『日本のGMP査察システムに関する検討会』にメンバーとして参加。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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