基礎から学ぶeCTD【第7回】

2020/08/28 臨床(GCP)

松井 一

はじめに
 前回は、新医薬品の承認申請資料として提出が義務化された申請電子データについて、その概要を解説した。解説の中で、SDTM(Study Data Tabulation Model)やADaM(Analysis Data Model)といったGMP Platformの読者の多くが、耳慣れない用語を目にしたと思われる。これらの用語は、PMDAが申請電子データの提出用に新たに定義したものではなく、CDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)と呼ばれる臨床試験データの標準化団体が、規定した標準規格である。今回は、CDISC標準の概要および申請電子データとして提出が求められている仕様のうちSDTMについて解説する。

1.    CDISCについて
 申請電子データ提出によって、臨床試験のデータマネジメントや生物統計担当者以外に注目がされるようになったCDISCについて解説する。
1.1    CDISCとは
 CDISCは、Clinical Data Interchange Standards Consortiumの略称で、臨床試験データの標準を開発する目的で、1997年に設立され、2000年にNPO法人化されたStandard Development Organization(SDO)である。CDISCの目的は、医療および生物薬剤の開発における臨床試験のデータやメタデータの電子的な取得、交換、提出、保管を支援する世界標準を開発で、メンバーは、製薬企業、アカデミア、CRO、ARO、ITベンダー等からなる。
 CDISCのビジョンは、「より高い品質の医学研究を通じて、患者の治療と安全性の情報を提供する」こととされ、ミッションは、「医学研究とヘルスケアの関連分野を改善するために情報システムの相互的な運用を可能とするグローバルでプラットフォームに依存しないデータを開発し、サポートすることとある。
1.2    CDISC標準の必要性
 そもそもCDISC標準が必要となった背景には、臨床データのFDAへの提出がある。前回述べたようにFDAは、1990年台より審査業務の効率化のために製薬企業へ臨床試験データ(個別症例)の提出を求めることがあった。その際、製薬企業は、自社内で解析に利用したデータ仕様をそのままでFDAに提出していた。そのためFDAは、データを再解析するにあたり、データ仕様をFDA用に変換する必要があった。一例として、被験者の性別をあげる。製薬会社Aは、変数名SEXで、0が男性、1が女性と定義していた。製薬会社Bは変数名GENDERとして、Mが男性、女性がFと定義していた。この場合、同じ性別でも変数名も変数定義も異なるので、FDAは受け取ったデータを自身の解析プログラムに合うように変換しなければならなかった。同様なことは、製薬企業間で共同開発するときにも生じる。このようにdataをinterchange(交換)するときの標準がないと余計な労力が必要となり、強いてはエラーの原因になることから、データ交換の標準について検討されることになった。
1.3    CDISC標準
CDISC標準には、次のようなものがある。
・   Trial Design Model (TDM):試験デザインモデル
・   Protocol Representation Model (PRM):電子化プロトコール
・   Clinical Data Acquisition Standards Harmonization (CDASH):症例報告書用変数
・   Operational Data Model (ODM):オペレーショナルデータモデル
・   Laboratory Data Model (LAB):検査データモデル
・   Study Data Tabulation Model (SDTM):臨床試験データモデル
・   Standard Exchange for Non-clinical Data (SEND):非臨床試験データモデル
・   Analysis Data Model (ADaM):統計解析データモデル
これらのモデルのうちSDTMとADaMが、申請電子データ提出で採用されている。

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執筆者について

松井 一

経歴 外資系製薬企業にて、20年以上に渡り、R&D情報管理ならびにCSVに従事した。2012年からは、株式会社シーエーシー、CACエクシケアおよびCAC クロアにて、製薬R&Dの情報管理、CSV、および申請業務に関する業務コンサルティング、CRO業務の品質保証や信頼性保証を行った。現在は、シーエーシーにて、デジタルヘルスソリューションのアドバイザーを務めている。
eCTDに関しては、ICH M8にエキスパートとして参加し、eCTD v3.2.2のメインテナンスならびにeCTD v4.0の仕様策定に従事した。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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