EU-GMP Annex 15: Qualification and Validation 改定案に対するコメント(5)

 本連載では、EU-GMP Annex 15のドラフト版に対する、GMP Platform(GMPP)の考え方を、条文ごとにコメントして行きます。引用した条文の翻訳は青字で、GMPPのコメントは黒字で表しました。あくまで、GMPPとしての解釈です。皆様のご指摘・ご質問・ご討論をお待ちしています。
 
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 本年2月6日にEU-GMP Annex 15のドラフト版が公布されました。パブリックコメントを募集中でが、やがて正式にEU-GMP Annex 15として、続いてPIC/SのAnnex 15として公布されると思います。
 プロセスバリデーションについては、2011年のFDAのガイドラインの改訂以降、様々な解説や改訂が発行されていますが、解説の中でも用語の解釈や使い方に微妙な違いがあり、新旧の用語が入り乱れて、以前からあった混乱に拍車をかけているように思われます。今回のEUのドラフト版は、非常にタイムリーで、こうした問題を解決しようとする意志が感じられます。これを契機にクオリフィケーションとバリデーションについて考え直してみましょう。

 気になるのが、プロセスバリデーションという用語でしょう。医薬品のライフサイクルという概念が導入され、従来のプロセスバリデーションと医薬品のライフサイクルを通じてのプロセスバリデーションは異なる概念であるにもかかわらず、明確に区別して使われていないため、混乱が生まれる大きな原因になっています。従来のプロセスバリデーションとは、IQ,OQ,PQに続くPVであり、手法としてのバリデーションである。人によっては「狭い意味でのバリデーション」と呼ばれ、本ガイドラインでは苦し紛れに「伝統的バリデーションの手法」と呼んでいます。一方、「医薬品のライフサイクルを通じてのプロセスバリデーション」とは、手法ではなく一つの概念、すなわち、医薬品の品質は、そのライフサイクルを通じて、常に改善されるべきものであると言う考え方を表しています。

 プロセスバリデーションが非常に特殊な医薬品特有の要求事項であると思われがちですが、先ず品質保証におけるプロセスバリデーションの位置づけについて考えてみたいと思います。私たちは、GMPを解説するために、さまざまな商品を例にあげて説明していますが、これを例にとって「プロセスバリデーションの意義」を考えてみましょう。
 対象商品が洋服だったらどうでしょう?洋服なら色は目に見え、手触りを確認し、更には試着して気に入ったその現物を買うことができます。またボールペンなどは目で見て解らなくとも実際に書いてみて気にいったものを購入できます。それに比べ、ハンバーガーはどうでしょうか?
 試食してみればわかりますが、もっとほしいと思っても現物は無くなってしまいます。見本を食べて同じものを注文することはできますが、その場合注文したものが試食したものと同じであるという保証が必要です。
一般に、商品は、それを破壊することなく、目的とする品質を有していることを検査できる群と、破壊しないと検査できない群に分けることができます。お分かりのように、プロセスバリデーションの対象とすべき商品は、破壊しないと品質検査ができない群に属する商品です。
 もう少し詳しく説明しましょう。もし、ハンバーガーを食べた人が翌日腹痛を起こした場合、そのハンバーガーが原因ではないことをどのように証明することができるでしょうか?原材料の品質や作り方、製造環境や作業者の衛生教育がどうであったか、等を記録や現場検証によって調査する以外に方法はありません。原材料・製造方法・製造環境・作業者に問題がないことの保証を通じて、間接的に商品の品質保証をするのが、プロセスバリデーションと呼ばれる手法です。
医薬品の場合は更に複雑で、投与された患者さん自身では品質の良し悪しを判断できない場合もあり、判定に何か月もかかる場合も珍しくありません。食べればすぐわかるハンバーガーと違って誤魔化すのは比較的容易で、通常価格も高いことから、世界では偽薬の流通が大きな社会問題となっています。
 こうしたことを考慮すると国家機関が関与して医薬品の製造を規制するのは当然ですが、規制当局に出来ることは非常に限られており、製造業者のGMPの遵守状況を監視すること位しかできません。GMPの世界では、よく「品質を製造プロセスに組み込む」と言われてきましたが、それを証明するために実施するのが、プロセスバリデーションです。「品質が製造プロセスに組み込まれている」ことが証明されていれば、品質を監視することは容易になります。当局が、プロセスバリデーションに拘るのは当然の事でしょう。
 以下に、Annex 15のドラフト版に対する、GMP Platform(GMPP)の考え方を、条文ごとにコメントして行きます。引用した条文の翻訳は青字ゴシックで、GMPPのコメントは黒字明朝で表しました。あくまで、GMPPとしての解釈です。皆様のご指摘・ご質問・ご討論をお待ちしています。
 

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