GMP記録の信頼性確保と対応の考え方【第3回】

3.1 GMP文書記録の作成と信頼性確保の考え方
現在、輸入原薬の多くを占める中国原薬の工場でもGMP記録の信頼性確保に関する事情(Data Integrityへの関心と重要性)は日本の状況と同じで、欧米当局の査察では多くの時間がこの課題に費やされる傾向にあることから、改めて、基本となる紙媒体の文書記録の作成管理について要点を確認し、品質部門を中心に教育訓練が行われる状況が見られます。
 
医薬品生産における文書と記録の作成目的は、言うまでもなく、医薬品の品質を確保し、延いては、医薬品の有効性、安全性を保証することにあります。これら記録は出荷時の合否判定だけでなく、出荷後、市場で消費されるまでの間、いわゆる、医薬品のライフサイクルを通して重要となるものです。例えば、品質クレームが発生した際などに、当該ロットの製造管理や品質管理の正当性を説明する上で、関連のGMP記録が不可欠であることは関係者であれば誰もが経験し理解していることです。また、試験検査に際し、規格外試験結果(OOS)が確認された場合など、過去の記録を精査し、同様な事象が起きていなかったかなど、原因究明の調査対象資料として必要となります。
このように、GMP記録は医薬品のライフサイクルを通して、製薬企業の信頼性を確保するために極めて重要であることから、生産部門だけの課題とせず企業全体の問題として捉えることが大切であり、PIC/Sのドラフトガイダンス(Good Practices for Data Management and Integrity in Regulated GMP/GDP Environments)にも関連の記述が見られます。
 
この重要なGMP記録ですが、これがその目的を十分に発揮するためには、記録内容が信頼に足る(正確性など)必要があると同時に、保存性に優れ記録内容が変化・消失しない(永続性)といったことも重要となります。簡潔に整理すると、「検証され文書化された手順に基づき製造・試験され、その結果、所定の品質規格に適合していることが確認され、責任者により承認され、それが適正に記録・保存され、必要時、記録された時点のデータが正確に確認できる」といったことになるのではないでしょうか? いわゆる「ALCOAの原則」はこのような考えから導かれたものと考えられます。また、この文書管理に関する一連の業務が適正に推進されている状態を客観的に示すためのシステム(文書記録の管理システム)が整備されていることも、記録の信頼性を確保する上で重要と考えられます。
 
これらのことから、本稿のテーマである「GMP記録の信頼性確保」を実現するためには、記録の信頼性のみならず、「文書化された手順(SOP)」の信頼性にも着目し、常に、これとの整合性に留意して、関連の業務を推進することが大切であることが理解されます。SOPの信頼性確保に関しては、例えば、文書の改訂に際し、「正当な理由により、適時に改訂が行われ、責任者の承認を得て、教育訓練が実施された後、変更後の業務が実施される」という流れ、つまり、変更管理が適切に行われているといったことが重要となります。
 
さらに、医薬品は製造販売承認を取得してはじめて製造が許可されることから、SOPや製造記録の、言わば、上位文書に当たる製造販売承認書の記載内容との整合性確保が重要となることから、GMP記録の作成に際しては、これら関連の重要な文書の内容との一貫性に留意して進める必要があります。製造記録の記入に万全を尽くしても、万一、製造指図書の製造条件などが製造販売承認書やMF(原薬等登録原簿)のそれと整合性を欠いていると重大な指摘を受けることになります。このことは、GMP記録の信頼性は、当該記録の「完全性」だけで確保できるものではないことを示唆しており、実際、この種の指摘が日本の医薬品製造所のみならず、中国やインドの原薬製造所においても少なくないことは周知のとおりです。製造記録と試験検査記録は、医薬品の品質保証に直結することから、特に、こういったことへの留意が必要であることは言うまでもありません。
 
紙媒体記録の作成と保存に際しては、上記のように、GMP記録の作成の目的とそれを達成するための要件や関連の業務フロー、また、上位文書との整合性確保の重要性を理解し、それらに留意して進めることが求められます。なお、SOPの作成や記録の記入に際する実務的な手法やルール等についてはここでは割愛させて戴きます。

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