ゼロベースからの化粧品の品質管理【第56回】

2025/05/16 化粧品

製造所における衛生管理のハード面の対応について

 

―製造所における衛生管理のハード面の対応について―

 化粧品製造におけるGMP(Good Manufacturing Practice, 適正製造規範)展開について一連にお話させて頂いている中で、GMPは製造工程におけるリスク全体を捉えるべきですが、衛生管理に関する事項に皆さんの関心が高いように感じています。そこで、前回は衛生管理の中でソフト面を中心に、重要点と主なリスク、その対応策、更に監査におけるチェックリストについて説明しました。GMP=衛生管理ではありませんが、今回は衛生管理に関してハード面を中心に説明致します。ハード面について話しをする場合、既に建屋や内部構造が決まっている状況ですので、『理想は分かるけど・・・』という意見を頂きそうです。しかしながら、先ずはあるべき姿の全体像を理解していないと、無駄な対策や偏った体制の整備になりかねませんので、ここでは基本的な要求事項から確認させて頂きます。

1.構造・設備に関する法的要求
 構造・設備に関する法的要求は、“薬機法 第六条”で基準が定められています。但し、この法規だけでは具体的に何をやったら良いのかが分り難いのではないかと思いますので、私は“緑本の化粧品GMPハンドブック”や“施設基準(食品衛生法)”も参考にして頂くことを推奨しています。

 <参考:施設基準(食品衛生法)>  食品⇒化粧品と読み替えて下さい。
(ア) 屋外のホコリ、廃水、廃棄物、排気ガスなどの汚染を防止、及びねずみや昆虫の侵入を防止出来る構造や設備があること。
(イ) 衛生的な作業を継続する為に必要な設備、機器や器具を配置し、取り扱う量に応じた十分な広さがあること。
(ウ) 作業区分に応じて間仕切り等により必要な区画がされ、工程に沿って機器が適切に配置され、空気の流れが管理出来る設備があること。但し、他の方法で必要な衛生管理措置が取られ交差汚染や二次汚染が防止できれば良い。
(エ) 住居と食品を取り扱う区域は区画されていること。
(オ) 食品を取り扱う場所の天井は結露しにくく、カビの発生を防止し、結露による水滴で食品等が汚染されないような構造、又は設備があること。
(カ) 床・内壁・天井は洗浄・消毒が出来る材質で作られ、洗浄が容易に行える構造であること。
(キ) 床・内壁は、水を使って洗浄する場合、内壁の容易に汚染される高さまでと、床面は不浸透性の材質で排水が良好であること。
(ク) 照明設備は検査・作業、及び清掃等が十分に出来るように必要な照度を確保できる機能を備えること。
(ケ) 水道水を使用する場合は必要な場所に必要な温度で十分な量を供給できる給水設備があること。貯水槽を使用する場合は食品衛生上支障のない構造であること。水道水以外を使用する場合は、必要に応じ消毒装置及び洗浄装置を備え、外部から汚染されない構造であること。
(コ) 手指洗浄する装置は、水栓が洗浄後の再汚染を防止できる構造の流水式手洗い設備を必要な数、設置し、洗浄消毒する装置を備えること。
(サ) 水で洗浄する区画や液体の廃棄物が流れる区画の床面には排水溝や桝があること。また、汚水が逆流しないように配管され、施設外に排出されること。
(シ) 取扱う原材料の種類や特性に応じ、必要な機能をもつ冷蔵・冷凍設備を必要な量に応じて設置すること。
(ス) また、汚染の防止が可能な状態で原材料を保管することが出来る設備があること。
(セ) トイレには専用の流水式手洗い設備を設置し、作業場に汚染の影響を及ぼさない構造であること。
(ソ) 廃棄物をいれる容器は洗浄がしやすく、汚液や汚臭がもれないものを使用すること。
(タ) 製品を包装する場合は衛生的に包装できる場所があること。
(チ) 更衣室は従業員数に応じ、十分な広さがあり、出入りが容易な所にあること。
(ツ) 食品等をする場合、必要に応じて熱湯や蒸気等を供給でき、目的や規模に応じた大きさや数の洗浄設備を設置すること。
(テ) 作業に応じた機器・器具・容器を備え、適切に洗浄、保管、保守及び点検を行うことのできる構造であること。また、食品に直接触れる機会・器具は洗浄ができ、熱湯・蒸気や殺菌剤での消毒が可能であること。
(ト) 移動できない機器は洗浄・清掃がし易い場所に設置し、組立式の機器は必要に応じて、分解・洗浄及び消毒が可能な構造であること。
(ナ) 冷凍・冷蔵・殺菌・加熱等の設備は、温度計や圧力計、流量計などの必要に応じた計量器をそなえていること。
(ニ) 掃除道具を必要数そろえると共に、保管場所や使用方法・清掃方法を作業者が理解できるようにすること。
 

 これらの食品衛生法の施設基準に加えて、薬機法の以下の事項を加えると充実した形になります。

 <薬機法 第六条 抜粋>
イ 屋外に直接面する出入口(非常口を除く)がないこと。ただし、屋外からの汚染を防止するのに必要な構造及び設備を有している場合においては、この限りでない。
ロ 出入口及び窓は、閉鎖することができるものであること。
ハ 室内の排水設備は、作業室の汚染を防止するために必要な構造であること。
ニ 作業室の天井は、ごみの落ちるおそれのないような構造であること。
ホ 室内のパイプ、ダクト等の設備は、表面にごみがたまらないような構造であること。ただし、清掃が容易である場合においてはこの限りでない。
六 製品等及び資材を区分して、衛生的かつ安全に貯蔵するために必要な設備を有すること。

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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