業界雑感 2017年10月

 「特採」という制度があった。入荷した原材料が受入規格に適合しない場合、通常は不適→返品→代替品納入、という手順となるのだが、代替品の納期が生産に間に合わない場合や原材料業者の出荷規格・協定規格には適合しているが、受入規格がより厳しい設定をしている場合など、その原材料を使用せざるを得ない状況で、包材の異常なら使用前の検品の追加や製造品の検査の強化、原料への異物混入なら異物の特定と篩過工程を追加して異物除去等の前処理を実施するなど、受入規格不適合であっても条件付きで「使用可」とする制度だったと記憶している。医薬品製造の分野ではGMPの高度化や国際化に伴って、標準作業以外の作業により製造を行うことは認められなくなり、特採という言葉も死語になっていると思っていた。

 日本を代表する製造業での品質に関する不祥事が続けて発生した。神戸製鋼では製造過程で顧客が求める水準を下回った規格外の製品を出荷することを「トクサイ(特別採用)」という隠語で呼び、40~50年前から今に至るまでそういう言葉が使われていたという。前述の「特採」とは意味合いも結果も違うのだが、トクサイという言葉だけで拡大解釈を続ければ医薬品の製造においても出荷規格には適合していないが、承認規格には入っているので出荷可とする、といった運用がまかり通ってしまいそうである。神戸製鋼の問題でもっとひどいのは、強度などを示す検査証明書のデータを、顧客から求められた製品仕様に適合するように書き換えるなどして、顧客の基準に合わない製品を出荷していたことが明らかになっている。いわゆるデータの改ざんである。改ざんは、約10年前から日常的かつ組織的に行われていたことを認めており、不正の背景について、納期を守るというプレッシャーの中で続けられてきたと説明されている。 もう一件は日産自動車で、新車の完成検査を無資格の従業員に行わせていたこと、それらの検査を、提出書類上は有資格者である従業員が担当したかのように偽装していたという。国内の6工場全てで、社内資格を有していない「補助検査員」も検査に携わっていただけでなく、偽装用の印鑑を複数用意し、帳簿で管理した上で無資格者に貸し出すという仕組みができており、偽装工作が常態化していたと見られている。同様の不祥事はスバルでも発覚、資格がない従業員が検査を行い、資格がある従業員の印章を借りて押印していたという。日産自動車と同様に、これもデータの改ざんである。

 近年薬業関係のセミナーや講演会では「データインテグリティ」に関するテーマが盛んに議論されている。データインテグリティを一言でいうと「記録の真正性、見読性及び保存性の確保」ということになろうか。記録が完全、正確であり、かつ信頼できるとともに、作成、変更、削除の責任の所在が明確であり、それらの記録を人が読める形 (ディスプレイ装置への表示、紙への印刷、電磁的記録媒体へのコピー等)ができること。さらに、それらの記録が定められた保存期間内に正しく保存されていることを保証する仕組みとなっていることが必要とされている。

 かつての日本の製造業はQCサークル・KAIZEN活動などにより高品質の製品を低コストで製造し、世界の市場を席捲してきた。それを支えたのは職人気質ともいう、ものづくりに対するこだわりやプライドであったと思っている。品質は製造工程でつくり込む、というのがGMPの基本理念であり、製薬業界ではもはや常識となっている。コンプライアンスやデータインテグリティは当たり前といえば当たり前すぎる要件で、今頃になって今さら、という感じがしていたのだが、今回の神戸製鋼や日産自動車・スバルの事例を他山の石として肝に銘じていかなければならない。

※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。

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