製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第8回】

2017/11/02 品質システム

重大異物の混入など、回収や、対応を間違うと企業の信頼を損ねるリスクの高い品質トラブルの再発防止や未然防止として、最も重要な対策の一つが教育訓練であることは皆さんも異論のないところかと思います。しかしながら、この教育訓練が実際にどれほどの効果があったかということに関しては、今一つはっきりしないのが現状ではないでしょうか?
今回は、こういった点に着目し、「教育訓練の実効性評価とヒューマンエラー対策」をテーマに考えを進めたいと思います。
 
人間は知らないことは実行できません。教育訓練により正しい知識や技術を身につけて、はじめて正しい作業ができるようになります。この一点をとっても教育訓練がいかに重要であるかは明らかです。しかしながら、教育訓練を重視し実践されている企業は少ないのが現状ではないでしょうか?皆さんの中にも、教育訓練がGMP省令で規定され医薬品製造業の許可要件になっているから実施している、つまり、行政査察で指摘を受けるので実施している、との思いが強い方が少なくないのではないでしょうか?
 
このことは、教育訓練には多くの時間を割かれない工場が多いことからも窺えますが、その根底には、管理者の多くに「教育訓練は生産に寄与しない」との考えがあるからだと思います。その一方、実務担当者の多くは、教育訓練は査察対応に重要と認識しているために、ほとんどの工場では、査察向けに一通りの文書・記録(実施手順書、年間計画書、実施記録、個人別記録など)が整備されているのが実情かと思います。その結果、教育訓練に関してはほぼ満足な対応できていると解釈されがちですが、本当にそれで十分なのでしょうか?
 
教育訓練の目的は、本来、業務に必要な知識や技術を習得することと同時に、先に述べた「4M」の一つである職員・作業者(Man)の質を向上させ、作業現場でのトラブルを最少化することや、彼らが、必要な改善を行う知識や能力を身につけることにあると考えられます。この観点から、年間を通して実施した教育訓練が、実際にどれだけ製造作業や試験検査におけるトラブルの減少に寄与したか、また、必要な改善がどれだけ推進されたかなどを評価することが大切ではないでしょうか? GMP基準の教育訓練の項に、「実効性評価」が要件として規定されている理由もここにあると考えられます。
 
「教育訓練の実効性評価」はGMPの要件であることから、行政査察の重要な確認事項の一つになっていますが、これへの企業の対応として、教育訓練実施記録書の中に該当する欄を設け、教育効果についてコメントを行うといったケースが見られます。しかし、教育訓練の「実効」は、実施後すぐに現れるものではないことから、こういった対応だけでは十分とは言えず、上記のような評価を合わせて行い記録に残すことが望まれます。
 
なお、教育訓練の効果を実施直後に確認できるものとして、講義形式の教育のあとに実施されるテストがありますが、これは、そのときに受講した内容の理解力と記憶力の評価であり、実効性の評価という点では、ごく一面の評価に過ぎないのではないでしょうか? GMP基準が求める実効性評価とは、上記のように実施後、半年、一年というスパンの中で、最終的に、ミスやトラブルの減少にどれだけ寄与したかなどを評価すること考えられるからです。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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