ドマさんの徒然なるままに【第63話】GMPのSDGs

第63話:GMPのSDGs

「SDGs」という言葉、最近では耳新しい言葉ではなく、読者の皆さんの会社でも目標として目指しているものと思います。今さら言うまでもないでしょうが、“Sustainable Development Goals”の略称で、国連が提唱した持続可能な開発目標です*1。このSDGsを医薬品に、しかも品質の基本として解釈したことはありますか? あくまで私見ですが、筆者なりに当てはめて、『勝手にGMP論』シリーズの第12弾(カミングアウト版を除く)として書いてみました。ある意味では、第9話「Sustainable GMP」の正論拡大版とも言えますが、第9話が“その場しのぎ”や“上っ面”のGMP運用を皮肉った実態ベースでの内容であったのに対し、本話は目標に向けた理念ベースとして書いています。

なお、本話においては、品質に関わるGood Practices全体、具体的にはGMP省令・GQP省令・GCTP省令・GDPガイドラインの総称として「GMP」と記しているので、その点をご容赦願います。特定のGMPや本来のGMPに限定して言及している場合には、都度具体的に表記を施しているので、その点をご了承願います。

また、以下に17つの目標それぞれに対して記していますが、元々の17つの目標を覚えておられる方も少ないかと思い、元々の目標の標語の日本語と英語を小見出しの後ろに、また元の具体的目標の日本語訳を各目標の末尾に参考までに水色で付記しています。


目標1:逸脱をなくそう 貧困をなくそう(No Poverty)
当たり前ですが、医薬品品質の確保のために逸脱をなくしましょう。「あらゆる場所で、あらゆる形態の逸脱に終止符を打つ」が目標です。ゼロにはできなくとも、減らすことを意識し、そのための努力をし、改善のための工夫をしましょう。それこそ、継続的改善(Continual Improvement)のベースなのではないでしょうか。手をこまねいて何もしないという状態では、“GMPの貧困”を招いてしまいます。「うちがそうです。」ってか!? お気の毒様です。
「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」

目標2:回収をゼロに 飢餓をゼロに(Zero Hunger)
製造販売業者であれば、ごくごく自然の、そして必然の目標なのではないでしょうか。でも現実には、安定性モニタリングに起因する“自主回収”と称するクラスIIの回収が如何に多いことか*2。(長期)安定性試験やプロセスバリデーション等、“普通に”科学的データを収集し検証して申請していれば、規格外れが生じることは稀だと思います。「規制要件を満たすこと ≠ 科学的に問題がない」であり、品質は患者さんへの安全性と有効性をもたらす源です。そのため科学的データの集積でなければなりません。再度、「医薬品品質とは何を意味するか?」を考え、「回収を無くし、医薬品安全保障及び組織体質改善を実現し、持続可能な製薬を促進」しませんか? 「承認事項との齟齬がありました。」って? 論外です。 
「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」

目標3:すべての人に健康と福祉を すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)
この目標は製薬会社の企業理念とも言え、皆様の会社のHPに掲載されていることなのではないでしょうか。表現の違いこそあれ、意味するところは同一と言えるんじゃないでしょうか。「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」が元々の具体的目標ですが、そのリーダーが製薬関連だと考えます。
「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」

目標4:質の高い教育訓練をみんなに 質の高い教育をみんなに(Quality Education)
別にGMPだから教育訓練を実施するわけではないですよね。製薬関係が生命産業ということもあり、念を入れるために規制要件として明文化されているというだけで、GMPや製薬会社に限定されるわけではないですよね。どんなお仕事をなされていたとしても、その仕事にマッチした教育や訓練は必ず必要になります。しかも全般的な内容のもあれば、個別の特殊なのもあります。一方的な“押し付け”ではなく、個人と組織の双方向に不足部分を補填し、レベルアップを意識し、個人としての理解を全体に活かすことが、“教育訓練の質”を高め、それを基に品質の維持・向上に努めることが本来の目的と考えます。
「すべての人々へ包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」

目標5:職員の平等の権利と責務に応じた公平な認識を実現しよう ジェンダー平等を実現しよう(Gender Equality)
職員それぞれの役割分担に応じた責務を全うすべきでしょう。ここで気を付けたいことは、個々には平等であるべきですが、管理者や責任者と一般の方は仕事上の役割とそれに基づく責任の重さには差があるということです。本邦では、一部の製薬会社の不始末から「責任役員」の設置と理解が求められる状態となってしまい、いまだに“コンプライアンス”が問われています。GMPの世界でのコンプライアンスは、ハラスメントや差別とは異なり、当事者でなく不特定多数の患者さんに被害が及びます。しかし、一方では傍目には見えないことから、当事者の意識に全てがかかっていると言えます。皆様の社内の現状について、管理職や経営陣も含めて一度徹底的に点検してみては、いかがでしょうか。
「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」

目標6:安全な医薬品を世界中に 安全な水とトイレを世界中に(Clean Water and Sanitation)
幸運なことに、この日本では、災害でも発生しない限り、水と衛生についてはかなり良いと思います。製造所の環境も極めて高いと言えます。医薬品、(法規制は別として)本質的には国境がありません。ならば、世界中の患者さんが安心して使用できる安全な医薬品を製造し供給したいものです。
「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」

目標7:健康をみんなに、そして適切に エネルギーをみんなに、そしてクリーンに(Affordable and Clean Energy)
医薬品の存在意義と言えます。ヒトとしてのエネルギーの源は健康です。副作用があるのは、ある意味仕方のないことです。ただ、病気そのものは治したいですよね。薬価の高い/安いという問題はあるかもしれません。そのため入手しやすい/しにくいという問題はあるかもしれません。ただ、それって、医薬品そのものの問題ではなく、法規制的・政治的・経済的に付随した問題なんじゃないでしょうか。あくまで、医薬品は病気を治し、健康と福祉に貢献するものでなければなりません。
「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」

目標8:働きがいも会社の成長も 働きがいも経済成長も(Decent Work and Economic Growth)
良い医薬品を創出し、それを製造・販売することで、病気に苦しむ患者さんを救う。それは、製造・販売する側にとっての働きがいに繋がります。そして、それは会社としてのビジネスの成長に繋がります。安心・安全な医薬品の安定供給に救われるのは、患者さんだけでなく、製造・販売する側にとっても、その会社にとっても有り難いことだと再認識すべきです。
「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する」

目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう 産業と技術革新の基盤をつくろう(Industry, Innovation and Infrastructure 
医薬品においては、「(最終)消費者=患者」です。言うまでもなく、生命産業です。また新薬開発には、10年以上の歳月と数百億円以上の費用がかかります。一方で、その成功確率は0.01%未満です*3。そこには、膨大な科学的データと技術が必要です。多種多様な知識や技術の結集が実を結んだ瞬間とも言えます。その意味で、製薬産業は、技術革新のコアの一つと言えます。
「強靱なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及び技術革新の推進を図る」

目標10:品質のバラツキをなくそう 人や国の不平等をなくそう(Reduced Inequalities)
品質は、安全性と有効性の源です。品質のバラツキは、患者さんの生命に関わり、ときに脅かすものと化します。安定性モニタリングは、世の中に出回っている製品の品質の状態を監視するものです。(可能性も含め)規格割れ等が発生すれば、安全性と有効性を保証できなくなります。まして、出荷前の製造段階でバラツキがあるなど、もっての他と言わざるを得ません。先の「目標6:安全な医薬品を世界中に」にも述べたように、医薬品には本質的に国境がありません。「品質にバラツキがない」ことが、国内外を問わずのグローバルスタンダードなのです。
「各国内及び各国間の不平等を是正する」

目標11:働き続けられる組織づくりを 住み続けられるまちづくりを(Sustainable Cities and Communities)
物言えぬ会社であっては、いけません。たとえ、それが会社にとっては耳の痛い内容であったとしても、誰もがそれを言いやすく、かつ管理職・経営陣はそれを真摯に受け止め、もし不備があれば直すことが、長期的には信頼できる良い会社への道です。信頼は、その実績により信用に繋がります。従業員が働きやすい会社、言うまでもなく、良い会社のはずです。
「包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する」

目標12:つくる責任 つかう責任 つくる責任 つかう責任(Responsible Consumption and Production)
GMPの世界に限定して言えば、「つくる責任=GMPの基本原則」で、「つかう責任=GMPの遵守」と考えます。GMPに振り回されるのではなく、使いこなすこと(当たり前のこととして実践すること)に意味があります。GMPは、“Good Practices”のうちの一つ、製造者・販売者、さらに取り扱う全ての者の観点での対応ということにすぎません。ここで、認識として大事なことは、“Practices(実践)”であり、あくまで、あなたの行動を意味するということです。
「持続可能な生産消費形態を確保する」

目標13:気候変動にも適応したクオリフィケーション・バリデーションを 気候変動に具体的な対策を (Climate Action) 
21世紀に入り、地球温暖化の影響が強く出てきているように思います。一昔前の天候とは明らかに違っているように思います。空調等、HVACシステムは、その能力・耐久性が外気の温湿度や浮遊微粒子に強く影響を受けます。また気候変動による昆虫等の発生が、ペストコントロール(防虫防鼠)にも影響すると推測されます*4。そのため、従来のクオリフィケーション・バリデーションも気候変動要因を加味しておかないと、万が一のリスクへの対応が十分とは言い難いのではないでしょうか。本目標、保管・輸送中の、所謂GDP関連も踏まえての対応が必要でしょう。
「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」

目標14:河川・海への優しさを守ろう 海の豊かさを守ろう(Life Below Water)
製薬会社、元々は化学系製造業からスタートしたこともあり、河川への化学物質廃棄が問われた時代もありました。河川の最終ゴールは海です。取りも直さず、海洋汚染となります。最近では、世界各国で環境基準を厳しくしていますが、さらに進展した形での協力が求められるのは必至です。「基準を満たせば良い」という時代は過ぎました。(現時点での)基準を満たすことには当然のこととして、「どんな協力ができるか、どれだけ貢献できるか」が問われる時代になったと認識しておかなければなりません。
「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」

目標15:陸への優しさも守ろう 陸の豊かさも守ろう(Life on Land)
河川・海洋だけではありません。産業廃棄物の処理はいかがでしょうか。地中はもちろんのこと、処理の仕方によっては大気中への排出も問題でとなります。二酸化炭素だけの話ではありません。それが何の物質であったとしても、大気を汚染することは問題です。それは結果として、陸上も汚染することに繋がります。製薬産業は、製品としての医薬品だけに限定されるわけでありません。製造過程で発生する物質やバイオハザードの影響も考えあわせることが求められ、それが健康と福祉に貢献する、本来製薬産業に求められるHSE(Health(健康)・Safety(安全)・Environment(環境))でしょう。
「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」

目標16:平和と公正を内部告発も含めたすべての人に 平和と公正をすべての人に (Peace, Justice and Strong Institutions)
薬機法違反やGMP違反等で行政処分を受けた会社の中には、行政査察で発覚したもの以外にも、前向きに上長へ不備・不具合を報告したのに一蹴されたもの、やむを得ず内部告発に至ったものまであったでしょう。改善のきっかけにも成りうる報告や内部告発が上長により揉み消されることなどがあっては組織に問題ありと言わざるを得ません。報告・内部告発のし易さに加え、当時者の以後の権利を踏まえ、不利益を被らないような組織運営体制づくりを検討しましょう。ビジネス的には喜ばしいとは言い難いことに対しても分け隔てなく耳を傾け、組織としての風通しが良く、職員全員が同じ方向を向いて改善・改良を推進することが大事なのではないでしょうか。これこそが、Quality Cultureの神髄なのではないでしょうか。
「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」

目標17:委受託パートナーシップで目標を達成しよう パートナーシップで目標を達成しよう(Partnerships)
現在の製造業者の大部分、製造販売業者本体の工場というケースは少なく、グループ会社も含めて、ほほ委受託によるものと思われます。GMP省令を筆頭に、Good Practicesの要件には、必ず“Outsourced Activities”に関する項目が挙げられています。委受託における連携(パートナーシップ)という言葉の聞こえは良いですが、それが実体としてどれだけ実施、担保されているのか。上下関係や下請けといったことではない、“フェアなパートナーシップ”を構築し、維持しましょう。企業間の関係と言っても、所詮は人間関係に尽きます。お互いが人間という感情を有する“いきもの”であることから、状況次第では品質にも影響しかねないのではないしょうか。
「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
能登半島
能登半島、今年(2024年)1月1日16時10分に日本の歴史に刻まれる大地震が発生した。能登半島として筆者の脳裏に浮かぶのは、松本清張の小説にしばしば登場することである。特に印象深いのは、「ゼロの焦点」であろうか。推理小説好きの筆者としては、2010年のGWに家内とドライブがてら和倉温泉に宿泊し、能登半島を一周した。当然、輪島の朝市にも行った。おばちゃんたちがなんと元気であったことか。おばちゃんの誘惑に負けてノドグロの干物を買ってしまった。白米千枚田の棚田も観た。「ゼロの焦点」の舞台となった断崖にも行った。美しい景色、美味しい食べ物、元気いっぱいのお年寄り、すべてが素晴らしい。そんな素敵な地の能登半島が、なんとも悲惨な状況に。家が全壊し生活の目途が立たないにもかかわらず、しかも元々冬は厳しい環境であったはずなのに、「ここから出たくない」という地元の人々の言葉は、本音以外の何物でもない。そこには、TV報道からも窺える“支えあうことの素晴らしさ”や“人間としての暖かさ”が感じられる。それだけヒトを引きつける魅力のある場所なのであろう。あの朝市での元気なおばちゃんの言葉をまた聞きたい。早い復興を願うばかりである。
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*1:国際連合広報センター、によるSDGs
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/31737/
https://www.un.org/sustainabledevelopment/sustainable-development-goals/
持続可能な開発目標 - Wikipedia

*2:厚生労働省 ウェブサイト「回収情報(医薬品)」を参照のこと
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/recall-info/0002.html

*3:厚生労働省「医薬品産業の現状と課題」(2010年代データ)
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000398096.pdf

*4:それまでに検出されたことのない昆虫種、異常発生の時期と回数、平均確認数の推移など、昆虫相調査の解析も季節や年度のみならず、数年から10年といった中長期間に亘る俯瞰的解析も必要になると推測します。専門業者さんとしては既に意識していると思いますが、依頼主である製造所側が業者任せの惰性的運用をしていると、いつの日か足元がすくわれる可能性があります。昆虫相調査・防虫防鼠対策、責任は依頼主である当該製造所です。

 

 

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