【第5回】デジタルヘルスで切り拓く未来

 

「デジタルヘルスと人新世」



●要旨
 人間が作り出した人工知能の扱いについて、熟考する必要があります。データ駆動社会において、ヘルスケアの進展が期待されていますが、そのデータの持ち主は誰でしょうか。PHRの取り扱いは、生活におけるデータよりも慎重に扱う必要があります。サイバーセキュリティなどを考慮のほか、データへの責任も重要です。人新世(アントロポセン)の概念は、データとの向き合い方を示唆しています。
 
●はじめに 人工知能は人工のものである
 前回に人工知能の活用に触れましたが、今日この1日で、また進歩しています。その中にあって、医療、ヘルスケア領域において、どのように考えると良いのでしょうか。よく理解しておきたいのは、人工知能は、あくまでも人工のものであり、人間の意図がたくさん組み込まれていることです。アウトプットのためにインプットが必要なように、何をもとに作るかも人間が決めています。この感覚が必要です。
 本当に大切なのは、何をやりたいか、何ができないのか、をしっかり見極めておくことでしょう。急激な発達の中で問題になるのは、データの扱いと人間が理解できない、説明できないことへの対応です。

<図表> データの時代と人新世

1 データ駆動社会
 リアルワールドデータの活用により、適切な医療が提供できるように、また、医療へのアクセスを早くすることから、臨床評価のあり方に変化が生まれています。その一つがリバランスです。考えてみれば、臨床評価をする際にはたくさんのデータが生まれます。いつどのようにデータを使うかを見直したものといえます。デジタル技術の導入によって可能になったことが大きく、これもまた、デジタルヘルスにおける一つの面だと思います。
 Covid-19感染拡大防止の観点から、リモート治験への要望が高くなり、リモートでの利点に目が向けられるようになりました。その時に活用されているのもデジタル製品やサービス環境です。家でモニタリングができる、医療者とつながることができる、いろいろなことが可能になりました。
 臨床評価、そしてリアルワールドでのデータを元にさらなる開発が進められることは容易に想像できるでしょう。もちろん、ブレーキをかける判断も行われるでしょう。また、日本は検診漬けであると揶揄されることもありますが、健康診査の機会も検査の機会も多い国です。そこに豊富なデータが存在しています。これらのデータから疫学的な情報を得ることができます。データ駆動によるヘルスケアの進展が期待できます。

2 PHRへのまなざし
 データを活用して医療をより良くすることへの期待は大きいものですが、立ち止まって考えるべきこともあります。そのデータの持ち主は誰でしょうか。もっといえば、診療に関する全ての情報の持ち主は誰なのかを考える必要があります。確かにプライバシーや本人意向により伏せられる情報もあるでしょう。しかし、基本的にはその人のものであり、第1回において「医療4.0」の概念を説明した通り、個別化のフェイズを辿っていくことになるでしょう。みんなのためのデータが、今度はあなたのためのデータとして戻ってくる時、その信頼性と価値はどのようなものでしょうか。

 こうしたPHR(パーソナルヘルスケアレコード)は、健康情報の中にもあります。暮らしの情報を紐づける事でより精細なことがわかることもあります。例えば、生活行動の中から疾病に関する情報を得ることです。生活に関する情報のプライバシーについて問題にするときよりも、健康や医療に関する情報はもっと気をつけて取り扱われる必要があります。一方で、誰かの情報があなたの健康状態の参考になることもあります。ですから、個人情報として特に慎重であるべきです。そして、ランサムウェアにアタックされる医療機関のニュースが後を絶たないように、サイバーセキュリティに気を配り、また、データが読み出せない事態へのレジリエンスも考えなければなりません。したがって、通知等が発出され、備えについて示されています。

 できるだけ人間らしい医療を実現する時、暮らしと周辺をサポートするものを活用するのは大切です。環境に目を配っておきたいものです。

 

 

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