医薬品開発における非臨床試験から一言【第46回】

代謝物評価の戦略

薬物動態試験における代謝物の安全性評価の原則は、まず、ヒト肝試料等を用いたin vitro試験から代謝物を検索し、生成速度を求めて代謝安定性の確認から始めます。そして動物試験で代謝プロファイルを検討して、臨床に入ってヒトでの代謝物生成を測定し、個々の代謝物の曝露量についてヒトと実験動物を比較して安全性を評価します。

代謝物評価に関する規制要件の一般的な考え方をまとめます。第11回に『非臨床試験実施のガイダンス、ICH M3(R2)の理解』の中で、ガイダンスの成り立ちを含めて解説しました。今回は、ICH M3(R2) Q&Aを含めて代謝物の規制要件を示します。ヒトでみられた代謝物を非臨床試験で特徴づける必要性について、Q&A 1の回答には、その代謝物の臨床での曝露量が、投与薬物に関連する総ての物質の曝露量の10%を超え、かつ、ヒトにおける曝露量が毒性試験での最大曝露量よりも明らかに高い場合のみであると、記されています。

ヒトにおける曝露量が毒性試験での最大曝露量よりも明らかに高い場合との表現は、統計学的に有意に高いことを意味するものではありません。トキシコキネティクスの評価では、通常、AUC(平均)の2倍以上の差に意味があると考えられています。したがって、動物での曝露量がヒトでみられた曝露量の少なくとも50%以上あれば、代謝物の毒性の特徴づけは十分になされていると考えられます。このように、曝露をAUCで評価し、動物で臨床での曝露の50%を超えておれば評価可能です。

ヒトにおける曝露量が毒性試験での最大曝露量よりも明らかに高い場合について、例えば、代謝物が1つだけの時は、どのように考えるのでしょうか。ある代謝物がヒトの総曝露量の大部分を占めるには、その代謝物の動物における曝露量がヒトでの曝露量を超えることが適切であると考えられます(Q&A 12を参照)。当該代謝物がヒトでの曝露の多くを占めることから、動物においてヒトよりも高い曝露量を得ることが必要です。

ガイダンスで示された『明らかに高い』とは、10%の曝露量を中心に代謝物の特徴づけについて説明されています。親薬物を投与して代謝物の曝露が十分であれば、親薬物の評価に代謝物の評価が含まれていると理解できます。臨床での曝露に対して非臨床での曝露が不十分な場合(AUC比で50%以下)は、すなわち、「代謝物の特徴づけ」ができていないといえます。これは、長いICHの議論を経たQ&Aの公式見解のため、新たに『このような場合は?』、のような各論で規制当局に質問を出して回答を求めるのは難しいと思います。

応用編になりますが、毒性試験に用いる動物種において、ヒトと同様に、プロドラッグが活性代謝物に変換されるなら、ICH M3(R2)で推奨されている標準的な試験アプローチを使用できます。プロドラッグを投与した動物種において、活性代謝物が十分に生成されない場合もあります。しかし毒性学的評価の対象となるのは活性代謝物のため、別途に、活性代謝物について、追加試験を実施することが適切と考えます。当然ながら、代謝物の曝露量が臨床での曝露を評価できる50%域に達していることが判断の基準となります。

代謝物を特徴づけるためには、親薬物を用いて、さらなる非臨床試験を計画する場合もあります。また、代謝物合成標品を投与する試験から、代謝物の曝露を評価可能なレベルまで上げることも考えられます。もう少しで曝露がクリアできるなら、何を投与するのかを含めて、「投与量」と「投与経路」をいろいろと試してみると解決に繋がるかもしれません。

代謝物試験のデザインについて、Q&A 11には『代謝物に関する非臨床試験のデザイン(種、期間、試験のタイプなど)はどのようにすべきか。』が示されていますが、回答11では『一般に、このような詳細な点については、ICH M3(R2)の適用範囲外である。試験デザインは、規制当局と相談しながら、科学的判断に基づき、個々の事例に応じて考慮すべきである。』との方針が示されています。代謝物試験を規制当局に相談するなら、実験をして代謝物を曝露させた結果が主題になり、実験方法の確認とか、実験をしなくてもいいか、のような相談は、多分、回答の得られない相談になります。
 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます