ドマさんの徒然なるままに【第57話】過ぎたるは猶及ばざるが如し・Part 1

第57話:過ぎたるは猶及ばざるが如し・Part 1

製造販売業者として国内外の受託業者の監査を数多く実施させていただいたが、「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」*1と思えることが少なからずあった。また、受託製造業者在籍時代は言うに及ばず、製造販売業者時代においても国内外の共同開発・導入導出先からの監査を受けるという中で「コレッて何なんだ!?」といったこともあった。別に指摘とか推奨とかいうレベルのものではないのだが、あまり良い印象は受けなかったという事例である。その体験談という訳ではないが、読者の皆様にあっても、「こんなことありませんでした?」ということで、列記した。「あるある」と思っていただければ、筆者にとっては“したり顔”、今風に言えば“どや顔”といったところである。

いみじくも、厚生労働科学研究の成果物として「GMP監査マニュアル」が近々発行されると聞いている(本話執筆時2023年8月25日現在)。性格が良いとは本人も思っていない筆者として、公的成果物には書けない内容を、しかし現実には「在り得ること」として、過去の経験を整理し、“監査の一般的流れ”*2に沿って列記した。監査を“実施する立場”&“受ける立場”を問わず、オマケ(蛇足?)の注意点として参考にしていただければ嬉しい次第である。

なお、本話Part 1と次話Part 2において、漠然と“GMP”と記している場合は、GMP省令を筆頭に、GQP・GCTP・GDPも含めた総称として記しており、GMP省令そのものを指すような場合は、具体的に表記しているので、その点をご了承ください。


【イントロダクションとしての全体説明の場で】
● 多すぎる出席者・1
訪問先の会議室に誘導される。入室した瞬間、「なんだ、この大人数は?」と思うことありません? 率直に申し上げるが、日本の製造所、大方は大人数が出席なされる。別に人数制限がある訳じゃないですし、2022年4月には(行政査察に対してではあるが)「医薬品製造販売業者及び医薬品製造業者に対する調査への責任役員の同席について*3と題した通知まで発出されてしまった。しかしながら、それはそれとして事前アジェンダで実施側としての同行者数を伝えてあるので、それを踏まえて必要最低限の出席者数を配慮して欲しいと願う。こういう些細な点も査察や監査に対する意識なんじゃないかと思うのである。

さらには、傍聴席まで準備している製造所もある。「監査は勉強会じゃねーし。」*4と心の中で呟くが、邪魔にさえならなければ、「そっちの問題だから。」として割り切ることにしている。この“傍聴”、ラップアップ時にはえらい人数に膨れ上がったりする。ラップアップ時については、次話Part 2で紹介したい。

ちなみに、欧州の製造所はそれぞれの個性なのか、出席者にかなりのバラツキがあると感じる。こちらが筆者一名で訪問することも多く、私一人に対して相手様が10名近くということもあった(名刺を貰っても名前と顔が覚えられず、挨拶の際に名刺に特徴を書いたりしていた。現在だったら写メか!?)。心の中では、「これじゃ、被告席だな!?」と感じるも仕方なしといったところである。

一方、米国の製造所、大方は少ない。場合によっては、QAの担当者1名か2名のことも多々あり、各担当者は現場ツアーの中で対応するか、必要に応じて呼び寄せるといったことが多かった。

● 会社概要ばかりを説明する(したがる)製造所
契約前ならばともかくとして、契約後の、しかも定期監査であるにも関わらず、●●さん(筆者のことです)は初めての来訪なのでと言って、品質関係やGMP運用体制の説明ではなく、会社概要ばかりを説明する(したがる)製造所がある。品質監査として何を目的に訪問したのか、筆者にとって初めての訪問は事実であっても、当該会社(当該製造所)についての事前勉強もせずに訪問することなどない。現在ではホームページで情報入手も容易であるし、ましてや定期監査であれば前回監査の結果も必ずチェックしている。そもそも、前回からの改善状況確認のための定期監査である。一般論として言えば、アジェンダまで合意済みで事前送付している。お互い、目的を最優先して時間を有効に使うことを意識して貰いたい。
《注》あまりにダラダラと説明するので、「会社概要は既に存じておりますので、品質関係の、できれば前回監査以降に絞って話を進めていただけますか?」と申し出たこともある。


● あまりに一般論を説明する(したがる)製造所
品質関係に絞ったからと言っても、一般論ばかりを説明する製造所がある。通常、委託先や供給先の監査は1日程度である。そのためオーディターはボイントを絞って確認をしたい。それもあって、事前にアジェンダで大よその時間割を示しているはず。それにも関わらず、ぐだぐだとGMP省令の各条項みたいな説明をされたら、「医薬品製造業許可を取得してるなら当然だろうが。それをどう運用してるか知りたいんだよ!」と心の中で叫ぶ。一歩間違うと、「お宅、俺がGMP省令さえも理解していないから教えてあげようとでも思ってるんか? お前に言われんでも、そのくらい知っとるわ!」とさえ思ってしまう。ハッキリ言います。間違いなく、マイナス要素でしかありませんので、お気をつけください。

● 最初の挨拶だけで、以降は無言を貫く製造管理者
QAに監査のホストを任せること自体は否定しない。が、自身の立場や責務の一環としてコメントすべき場面もある。それでさえ無言のままという事態は、疑問を感じざるを得ない。「製造管理者の●●さん、これについて何かコメントありませんか?」という質問をさせたいの? ちょっとだけ書面調査時の話に飛び火するが、書面調査の場面でのあなたの出番があるとすれば、逸脱だとか回収だとか、ろくな話でない場合になっちゃいますよ*5

現在だったら、2022年4月発出通知「医薬品製造販売業者及び医薬品製造業者に対する調査への責任役員の同席について」に準じて(委受託等の監査についても)同席している責任役員に対して、「上級経営陣としてどう思いますか?」なんて質問するのもありかな? なんて思ったりする。
《注》決して脅しではありません。が、イヤミな筆者であれば、確実にやります。

なお、これがラップアップ時、しかも指摘・推奨事項を告げた後の“締め”の場で、製造管理者も責任役員も誰もノーコメントであったとすれば、それ自体が指摘対象とされても仕方がないように思いますので、注意してくださいな。ラップアップ時については、次話Part 2で改めて紹介しますが・・・。

● あまりにも素直すぎる製造所(ほとんどイエスマン)・1
イントロダクションは、基本的には概要説明・全体説明の場なので、質疑応答自体が少ないが、それでも続く現場ツアーや書面調査を効率的に進めたい&誤解を避けたいための前置きとして確認したいこともある。そんな中、「えっ、そうなの? 普通はコレコレなんじゃね!?」という場合がある。それを率直に伝えると、「じゃー、そうします。」と一つ返事(正しくは二つ返事だが、誤用の“一つ返事”のほうが一般的なので、“一つ返事”として記した)の製造所がある。素直すぎて、それ以上の突っ込みはできない。が、ハッキリ言います。こっちの言っていることが、必ずしも正しいとは限らないし、そちらはそちらの立場や考え方もあるでしょ。自製造所として納得した上での「Yes」ならば良いが、そうでないなら少しは自分の意見として異論・反論しては? ラップアップ時ならば指摘等の改善対応に直結するので、“なおさら”と言える。これまた、ラップアップ時については次話Part 2で改めて紹介します。

● あまりにも下手すぎる通訳(逆に、ものすごく知識・経験を有している場合は有り難い)
海外取引先による監査という状況においては、当然英語でのヤリトリとなるため。英語通訳を雇うことになる。その英語通訳なのだが、医薬品製造所の監査を専門にしていない(少なくとも不慣れな)通訳になってしまう場合がある(いつも依頼している通訳さんが他社に先約されているための場合が多いが、予算をケチッた場合もある)。英語そのものは上手なのかもしれないが、専門用語も含めて、医薬品製造所の監査という状況にマッチした通訳になっていなかったりする。ある時、あまりにもヒドイので、自身の片言英語で通訳の通訳(要は、通訳さんの補足説明や専門用語での翻訳)をしたこともある*6

率直に言って、料金は上がっても製薬会社の監査に慣れている方を依頼しましょう。通訳の問題から誤解を受けて話がこじれ、指摘とされてしまう場合さえあります。金を払って混乱を招くなんてこと、バカバカしいと思いません? 指摘改善のためのリソースを考えれば通訳料なんて屁でもないと言えます。通訳さんの手配は、ケチらず、できるだけ早く予約しましょう。ちなみに、お世話になった通訳さんについては、次回のために勝手ながら“隠れ評価”し、リストアップしておくことをお勧めします(通訳さん、ゴメンなさい)。

逆に、専門知識が素晴らしい通訳さんもいる。ある時、製造部門の書面調査の際に、応答者がオーディターの質問の意味(日本語に訳されている)が理解できずにポカーンとしていたら、通訳さんが即座に「●●のことです。」と一言。うーん、プロだわ。

【現場ツアーの場で】
● あまりにも下手すぎる説明・応答
現場での説明に際して、担当者の説明や質問に対する応答があまりにも下手すぎる場合がある。特に製造部門に多い。普段、あまり説明や、まして質問を受けるといった行為が無いためとも言えるが、監査があると分かっている訳ですから、それなりに準備をし、また複数社からの委託もあるでしょうし、少しは慣れてくださいな。

下手すぎる説明だと、「これじゃ、(海外を含む)行政査察はパスしねーなー!?」という不安がよぎるのである。そう、自社の品質確保と同時に、行政査察のことも意識して監査してるんですよ。そんなこと、気づきません? ハッキリ言いますけど、あんたのところが行政査察をパスするかどうか心配なのは、製造業者としてのお宅だけじゃないんですよ。むしろ、製造販売業者としての委託元なんですよ。だって売り物の製品の承認が降りない or 造れないって、とんでもないことですからね。

● 余計なことばかり言っている製造部門長やQC部門長(ほとんど雑談レベル)
一方で、前項と真逆のパターンがある。これらは部門長と言うか、製造管理責任者・品質管理責任者といった管理責任者レベルに多いのだが、的を射た説明ではなく、余計なこと、悪く言えば、“無駄口”か“雑談”に近い話が多いのである。あくまでタイトな時間割で進行せざるを得ないGMP監査ですから、製造や試験検査としての製品の品質に関連する話に絞って欲しい。貴社とは親密な委受託関係ですと、フランクであることを強調したいのだろうが、それはあくまで“オマケ”であり、監査本来の目的から逸れていますからね。

● 現場任せにしたがるQA
現場ツアー、基本的には各現場の担当者が説明することになる。ただ、オーディターからの質問が、一般的なGMPの内容、しかもQA担当の内容に飛び火することがある。そんな中でも、現場担当者任せにするQAがいたりする。ちょっと待て! それって、回答次第では指摘にされる可能性もあるぞ。場合によっては、QAによる教育訓練を含むGMPとしての管理不足の問題とされる可能性だって在り得る。中には、意図的に現場とQAとの協調性をチェックするという鋭いオーディターだっているので、要注意である。

● QA任せにしたがる現場
前項とは真逆のパターンもある。本来は現場担当者として説明・回答しなければならないにも関わらず、何かとQAに振る奴である。このパターンは要注意である。理由は、各現場には現場における(GMP管理を含む)作業の責任がある。それは、GMPだからと言っても、QAの業務とは異なり、自分たちの責務については自分たちで説明・回答しなければならないという背景があるからである。そういう理解も込みでの現場ツアーであり、現場でのヒアリングなのである。

● 仕切りたがるQA(出しゃばりなQA)・1
前項の補足でもあるが、現場ツアーは、あくまで製造現場&試験検査現場の現状確認である。すなわち現場の日常の実態を知りたいのである。ということは、管理責任者を含む現場担当者の口からの説明が求められる。ところが、オーディターの質問に対して、横から口を挟むQAがいたりする。知ったかぶりをしたがるQAに多いと言える。現場でのヤリトリの中でQAとして答えるべき場合や内容もあることにはあるが、基本は現場の実態の話である。あまり出しゃばり過ぎると、QAの出来が良いなんて絶対に思わない。少なくとも、好印象は与えない。「この製造所、QAの恐怖政治か?」という疑念しか抱かないのである。

● 後で確認させてくださいと頼んでおいても記録を見せようとしない現場担当者
単に忘れているだけならば良いのであるが、これが恣意的に忘れている振りをしているのであれば大問題である。ほとんどは、たまたまと思われるが、以下のようなヤリトリが複数回発生すると疑念が生じるので、注意されたい。
 「現場でお願いした●●記録は用意なされていますか? 拝見させてください。」
 「あっ、失礼しました。いま持ってきます。」
《注》通常は、すぐに提示できるように室内には記録が手配準備されているはずである。


【ランチタイムで】
● 長すぎるランチタイム(車で外部レストランに連れ出すなど)
お客様扱いでのご馳走は感謝するが、あくまで監査業務として仕事で出張している。短時間で必要事項を確認しなければならない。某製造所で、「外に連れ出し、ランチタイムで時間を浪費させてチェックを減らすんだ」という本音を聞かされたこともあった。こういう姑息なことはやめたほうが良い。さすがに逆切れはしない(そのくらいは大人です)が、決してプラス効果はないですから。

ちなみに、この手の“連れ出しランチ”、欧州で1回だけ経験したが、ほとんどは日本だけである。多くは敷地内のキャンティーン(社員食堂)、もしくはパワーランチである。

● ランチの場になると急に流暢に話をしだす奴
監査時の説明時には、いまひとつパッとしないと言うか、的を射ない奴が、ランチに入った途端、流暢な弁舌に変貌する奴がいる。うーん、それだけ話せるならば、もうちょっと簡潔明瞭な説明をして欲しいんだけど・・・。

「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」は、孔子の言葉に由来し、「何事もほどほどが肝心で、やり過ぎることはやり足りないことと同じように良いこととは言えない。」という意味ですが、何事にも“度合い”が、場合によっては“間合い”も必要になります。それに加えて、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という孫子の名言もありますので、相手だけでなく、自身の言動や行動にも注意しましょう。

そんなことを踏まえて、実施する側/受ける側を問わず、もし思い当たる節があるのであれば、注意なさってください。

本Part 1では、“監査の一般的流れ”のうち前半に相当する、「イントロダクション(概要) ⇒ 現場ツアー ⇒ ランチ休憩」までのオヨヨ!な話を紹介した。次話Part 2では、後半の「書面調査 ⇒ ラップアップ」のアノネー!な話を紹介したい。

 

では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
種なしブドウ
筆者が子供の頃から、ブドウと言えば、基本的には「種なしブドウ」であった。植物は種で増えると思っていた子供時代、なんでブドウには種がないのに増えるのか不思議であった。ジベレリンという植物ホルモンによる処理を2度行うことによって、種を生じさせることなく実を成長させることができると知ったのは大人になってからである。
そんな種なしブドウ、色々な品種に改良され、しかもシャインマスカットのように皮ごと食べられるものまで出てきた。義理の娘(息子の嫁)が岡山県倉敷市出身ということもあり、毎年夏にお里帰りした際に送ってくれる。美味しい。しかし、種なしブドウのはずが、ひと房に数個くらいだが、種の入った粒がある。ガリッとした歯ごたえで、一瞬ムッとするものの、この数年は、「お前も子孫を残そうと頑張ったんだなー!」と思うようになった。一昔前ならば絶対思わなかったものだが、家内に先立たれた以降、妙に“生きる”という感覚が鋭くなったように思う。それだけ歳を取ったとも言える。
“種なしブドウの種ありさん”、美味しく戴いたよ。お前が自分の生き様を貫いたことは承知したよ。ありがとう。
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*1:(天の声)お前、先月の第56話Flexible GMP・後編」の第13章の中に、この諺をさりげなく挿入してなかったか?
(筆者)あれっ、バレちゃった!?
(天の声)やることが姑息な奴じゃ! 
(筆者)先を見据えた予測的行動と言ってくれない? しかも予告を兼ねた素晴らしい対応だとね。
(天の声)よく言うわ、単なる卑怯者だわ。
(筆者)あんたに“だけ”は、言われたくないわ!

*2:イントロダクション(概要) ⇒ 現場ツアー ⇒ ランチ休憩 ⇒ 書面調査 ⇒ [オーディター側内部相談] ⇒ ラップアップ
なお、製造所監査の全体像については、以下のアーティクルも参考になるかと思います。著作物としては古いですが、現在でも大きく変わってはいないと思います。
古田土 真一著、「GQP・GMPで求められる製造所監査」ファームテクジャパン、2005年12月号~2006年7月号の8回連載

*3:令和4年4月28日付け薬生監麻発0428第9号、薬生安発0428第3号「医薬品製造販売業者及び医薬品製造業者に対する調査への責任役員の同席について
また、背景を含んでの関連通知等については、併せて「ドマさんの徒然なるままに 第48話:poor GMP・前編および第49話:poor GMP・後編」もご参照ください。

*4:余談とはなるが、過去、問題ありすぎの受託製造業者に対して、再監査の際に教育的指導時間をアジェンダに盛り込みレクチャーしたことがある。相手がこれはラッキーと思ったかどうかは測りかねるが、監査を通り越し、大会議室での完全なGMPセミナーと化した。

*5:GMP省令の中で製造管理者の役割として規定されている事項としては、以下のようなものがある。
製造部門と品質部門の管理監督、医薬品品質システムの運用状況の確認、製品品質の照査・変更の管理・逸脱の管理・品質情報及び品質不良等の処理・自己点検・教育訓練の各報告を受けての対応指示など

*6:読者の中には英語に堪能な方もおられるかと思うが、監査という限定された特殊状況の中では、一般的な英会話レベルとしての文法的なものよりも、オーディターとして尋ねたいこと&GMPとしてのポイントを絞った回答のほうが重要である。自身がオーディターであった場合 &ホストとして受けた場合の両者の経験から、英会話としては滅茶苦茶であっても、その場で求められるベストマッチな用語や表現が何となく分かるのである。

 

 

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