業界雑感 2017年6月

医療費の費用対効果の議論が始まっている。厚生労働省は6月14日の中央社会保険医療協議会の部会で、数千人の一般人から面接方式で聞き取る大規模調査を行うことを提示した。「このくらいまでなら保険で支払うべき」という相場観をもとに、高額薬の薬価引き下げを企図しているという。 先日立命館大学の製剤技術研究コンソーシアムの研究会で、国際医療福祉大学の池田先生の当該の話題に関する講演を聞く機会があったのでその内容を以下に簡単に紹介する。
 
① 医療費の伸び(平成27年度)3.8%のうち薬剤料の伸びは1.4%で高齢化の影響1.2%を上回っている。医療費支出を抑制していく方策の一つとして費用対効果分析による高額薬の薬価引き下げがある 
② 費用対効果を薬価算定に取り入れている代表格は英国で、英国立医療技術評価機構(NICE)が評価を行い、高額薬を公的医療保険から外すなどしている。対象となる費用は原則として公的医療費のみで、その他の患者負担や本人の生産性損失は含めない 
③ 効果の評価指標としては質調整生存年(Quality-adjusted Life Year ; QALY)を基本に疾患や医薬品、医療機器等の特性に応じその他の指標も用いられる。1QALYは健康な人が1年生存するという意味で、完全な健康をQOL(Quality of Life)=1、死をQOL=0として例えばQOL=0.7で2年生存の場合QALYは0.7×2で1.4年となる 
④ 診療現場においては、臨床的エビデンスに加え経済的エビデンスにも留意しつつ治療選択が可能になる一方、新薬開発・導入の阻害やアクセス制限など患者にとっての不利益が生じないよう留意が必要

制度が進んでいる英国では、1QALYあたりに公的保険が投じる推奨ラインは300~400万円というから、延命できる命に値段がついたように感じてもおかしくはない。 
製薬メーカーはこれまで、アンメットメディカルニーズに対応するために開発費をつぎ込んできた。昔は外科的手術しか対応手段のなかった疾病であっても、革新的医薬品の登場で、手術が不要になり、QOLが飛躍的に向上してきた。これまでの薬価制度を前提に製薬メーカーは大きなリスクを背負いながらでもイノベーションを追及してこられたとも言えるわけで、ルールが変わることで今後の新薬開発への意欲の低下のみならず、グローバルに挑戦しようとするメーカーの存続すら脅かしかねないとの危惧も生まれてくる。超高齢化社会に入り、医療費の抑制が喫緊の課題であることは理解できるが、なりふり構わず医療費(の中でも特に薬剤費)抑制のために、大きな筋道もなく手当たり次第に政策を打ち出しつつ梯子を外していく姿勢には疑問を感じざるを得ない。

※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。

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