医薬品開発における非臨床試験から一言【第42回】

代謝物評価の規制要件

製薬産業とレギュラトリーサイエンスの関係を考えてみますと、医薬品の開発は、三極(米国,EU,日本)を中心に成立しています。そして三極の規制当局と産業界代表の合計6団体が中心になって、ICH(医薬品規制調和国際会議)で、医薬品の規制に関する共通の評価基盤を形成し、安全で有効な新薬がたゆまなく創り出されてきました。

今回は、薬物動態のなかで代謝物の安全性評価における規制的な考え方について取り上げます。代謝を含む薬物動態の情報は、医薬品開発の過程で、実験動物や臨床試験から得ることができ、製剤や投与方法を適切に設定するために重要です。さらに、毒性や薬理作用の発現機構を明らかにするために必要となります。

薬物動態への影響因子は、種差、個体差(個人差)が考えられます。薬物代謝活性は種々の因子により影響を受けるために、非臨床の薬物動態情報をヒト(臨床)へ外挿することが大切です。非臨床試験での毒性/薬理作用の情報を臨床に役立たせて、臨床での安全性や有効性を判断し、薬理作用の個人差や患者さんの感受性の評価に活用します。また、臨床での薬物相互作用の予測にも重要な情報となります。

非臨床での代謝物の安全性評価には、親化合物を投与して代謝物の血中濃度から評価するのと、代謝物を投与して評価する2方向があります。また薬物動態がヒトに近い動物種での毒性試験や薬理試験の結果は有用と考えられます。しかし、代謝物(代謝経路)がヒトと大きく異なる動物種での結果の解釈は、「安全/毒性」の判断に注意を要します。いわゆる外挿性が課題となります。

代謝物の安全性評価は創薬に関わっている部門間で議論することが重要です。毒性研究、薬物動態研究、薬理研究、製剤研究、臨床研究、市販後臨床研究などの情報を共有します。そして、医薬品開発に関わる企業での研究や、承認審査、臨床での副作用等を学んで、代謝物の安全性評価に関する創薬現場の進歩を計るべきです。

代謝物の安全性評価に関する日本での規制要件の歴史を振り返ってみますと、1975年に厚生省からの通知「新医薬品の製造(輸入)承認申請に際しての留意事項について(昭和50年3月28日 薬審第526号)」で示されています。この通知には、世界に先駆けて、主要代謝物の毒性や薬理作用に関する情報の必要性が述べられています。ただし、具体的な毒性評価までは言及されておらず、単回投与毒性試験では検出された全ての代謝物を評価するようにと受け取れました。

ICH-1(1991)では、日本の規制当局から、毒性学的評価が必要な代謝物の考え方が提案されました。毒性試験で用いた動物種では認められない代謝物が臨床で見られた場合、また臨床で特に多く生成する代謝物の場合、さらに薬理学的・毒性学的に重要と思われる代謝物の場合などの研究の取り組み方が示されました。しかし、安全性評価を行う代謝物の生成量には言及されず、ケースバイケースの判断になっていました。

これらの経緯も踏まえて、日本製薬工業協会(製薬協)では、医薬品開発における代謝物の安全性評価に向けた取り組みに関する論文を投稿(2011)して、臨床での安全性に配慮しながら有用性の高い医薬品を創出するための効率的なヒト代謝物の評価について示しました。また、代謝物の評価に関連して、ICH M3(R2)が2010年2月に、ICH M3(R2) Q&Aが2012年8月に発出されました。米国食品医薬品局(FDA)の代謝物ガイダンスは、ICH M3(R2)に準じて2020年3月に最終改定されました。

少し時代を戻して、欧米における代謝物評価の議論、特にFDAの場合を振り返ってみます。FDAと米国研究製薬工業協会(PhRMA)により、2002年~2003年頃に代謝物の安全性試験について評価すべき代謝物の生成割合等の議論が行われました。

 

 

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