医薬品開発における非臨床試験から一言【第40回】

非臨床試験と製剤の分析法

非臨床試験を大きく3つに分けて考えると、薬理、薬物動態、毒性に分かれ、試験方法は培養細胞系でのin vitro試験と実験動物を用いた試験になります。これらの試験のデータを繋いでいるのが薬物濃度の分析と言えます。すなわち、薬物濃度の推移を評価して理解することで、薬理作用と毒性作用を見極め、さらに非臨床と臨床の薬物濃度を「曝露」で繋ぐことで創薬を考えています。

薬物濃度の分析には生体試料の分析法と原薬・製剤の分析法があり、分析マトリックスの違いがあります。生体試料には、in vitro試験で用いる細胞試料、血液・尿・胆汁などの液体試料、さらに肝臓などの組織試料が含まれます。これらには、多くの生理物質に加えて原薬由来の代謝物も含まれ、マトリックスの多様性が考えられます。一方の製剤は原薬の製造工程を含めて品質管理としての分析があり、生体試料とは異なり、比較的に単純なマトリックスになります。

品質管理での分析法では、原薬・製剤で同じようなマトリックスでの分析になり、これを基本にバリデーションが行われています。一方、生体試料中の分析は、検体の多様性から、個々の分析に対応したマトリックスを準備してバリデーションを行います。例えば、ラット血漿の分析は、週齢、性別、絶食/摂食などの実験条件を決め、コントロール血漿を採取して分析法バリデーションを行います。またイヌの血漿を分析する場合は、できれば実験条件を考えたイヌの血漿をマトリックスに用いたバリデーションを行うべきと思います。

このように、対象試料により、全てのマトリックスでバリデーションを行うのが原則になりますが、マトリックスの準備が難しい希少サンプルでは、代替え試料を用いたバリデーションを行って、パーシャルなバリデーションで分析法を論理的に繋いでクリアすることも選択肢として用いられます。

分析法の考え方として確立したICH Q2は、市販用の原薬・製剤の出荷試験および安定性試験に用いる分析法に適用されます。一方の生体試料の分析には、マトリックスの多様性の面で異なるガイドラインが必要となります。繰り返しになりますが、生体試料中の薬物濃度分析は、定量値に与えるマトリックスの成分の影響が大きく、さらに検体毎の影響も異なるため、これらの多様性を考慮した分析法が求められています。

海外ではバイオアナリシスの分析法バリデーション(BMV)の信頼性を確保するためのガイドラインとして、2001年に米国食品医薬品局(FDA)はGuidance for Industry:Bioanalytical Method Validationを発出し、2011年7月に欧州医薬品庁(EMA)はGuideline on Bioanalytical Method Validationを発出しました。

日本の分析法バリデーションに関する取り決めは、前述の品質試験に関するICH Q2A, B(1997年)のみで、バイオアナリシスに対応していませんでした。そこで、2011年8月に産・官・学からなるバイオアナリシスフォーラム(JBF)が設立されました。これにより欧米のBMVガイドラインに注目しつつ、日本におけるバイオアナリシスの規制要件を議論する場が開かれました。

JBFでは日本でのBMVの現状を踏まえた薬物濃度分析に関して検討を重ね、2013年には「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドライン」が作成されました。このガイドラインにおいて、医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析とは「対象薬物やその代謝物」の有効性および安全性を評価する上で、臨床薬物動態試験や非臨床薬物動態試験(トキシコキネティクス試験を含む)に活用されることを前提としています。そして、生体試料中薬物濃度は、体内動態、バイオアベイラビリティ、生物学的同等性および薬物間相互作用等の評価に利用されると定義されました。
 

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