医薬品のモノづくりの歩み【第16回】

「モノづくりカルチャー」と安定供給(4)

 前回から、医薬品の「モノづくり」における「安定供給」のための重要特性について紹介し、一つ目の大きな要因である「生産計画」について触れました。
第16回の今回は、二つ目の大きな特性である「安定稼働」について述べたいと思います。
ここでの安定稼働とは、製造設備だけでなく、造水設備や空調設備など生産支援設備を含む、言わば、工場の生産に関わる全ての設備の安定稼働を指します。
設備は、長年使用し続けると劣化していきます。図1は、設備を新設してから時間の経過とともに劣化状態と故障頻度を示したバスタブ曲線です。
設備をそのままの状態で使い続けると、青線のグラフのように、ある時点で急激に機能が低下していきます。と同時に、故障の頻度も、赤線で示したバスタブの形の曲線のように、使用開始初期のチョコ停程度の故障が頻発する時期を経た後、故障が減少する安定稼働期になりますが、その後劣化が進み、故障が急増していきます。
長期間、設備の安定稼働を維持するためには、故障が少ない安定操業期間をできるだけ長く保つ取り組みが必要です。

図1 設備の劣化状態と故障頻度のバスタブ曲線

 医薬品の製造設備の場合、一定の温湿度で管理された清浄度の高い部屋で使用されることが多いため、外的な自然環境要因の影響を受けることは少ないですが、一方で、GMPの3原則にあるように、設備から製品への汚染や異物を発生させないよう常に維持管理が求められます。また、医薬品の品質確保の観点から、予てから人による汚染や作業ミスを削減するために、設備の自動化や省人化が進展しています。最近では、GMP管理面で製造稼働実績の根拠データの信頼性(データインテグリティ)が要求されてきています。更に、抗がん剤や抗体医薬のような高薬理活性医薬品の製造では、封じ込めの設備仕様が増えてきており、そのための機能維持が求められてきています。

 このような医薬品の製造設備の特殊性から、安定稼働のための取り組みとして、正しい操作方法の実施と実績データ収集、適切な設備メンテナンスが必須であり、GMP管理の点でも大変重要なことです。また、設備が安定稼働することは、安定操業が継続されることになり、更に、設備の延命による更新時期の延長や設備稼働率の向上でコストメリットにも繋がります。
このことは、既に以前の連載記事でも触れましたように、図2で示した「モノづくり」の基本要素の品質(Quality)、生産性(Cost)、安定供給(Delivery)の関係に他なりません。

図2 「モノづくり」の基本要素の関係

 では、設備の安定稼働のための維持管理の取り組みについて話を進めましょう。
設備を正常な状態に保ち、安定且つ安全な稼働状態を維持するためには、設備メンテナンスを行うことが大切です。
設備メンテナンスは、大きく保守点検と設備保全に分けられます。更に保守点検は日常点検と定期点検に分けられ、設備保全は自主保全と予防保全に分けられます。
それぞれの意味は、以下の通りですが、日常点検と自主保全は、主に設備のオペレーターが実施し、定期点検と予防保全は、主に保全部門が担います。


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