新・医薬品品質保証こぼれ話【第22話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

「驕り」は信頼性確保の敵

“承認書と製造実態の齟齬”により回収や製造所の業務停止が多発し、医薬品不足を招き、医療現場が混乱するという状況が2年という長きにわたり続いていますが、何ら抜本的な解決策が見えないのが現状のようです。この状況下、今なお、この“齟齬”の問題は医薬品製造所に対する行政査察や企業監査の最重要課題の一つとされ、それに対応するために各製造所においては自主点検や内部監査が行われるという状況が続いています。

医療用医薬品、とりわけ後発医薬品の製造業者の多くは政府の後発医薬品使用促進策の影響もあり、ここ何年も右肩上がりの成長を遂げてきたと推察されます。こういった言わば“成功体験”にも似た状況が長く続くと、人は大船に乗った気持ちになり、多少、法的にグレーと思われることでも後先を考えることなく勢いで実行してしまうといった一面を持ち合わせています。こういったことは人間であれば誰にもあり得ることであり、長い人生の中で誰もが一度や二度は経験するのではないでしょうか。これが、いわゆる「慢心」であり、この状況が高じると「驕り」となり、様々な弊害を招く原因となります。

この「驕り」が、この2年の間に発生した様々な「違法製造」事案の背景にあったのではないかと思われます。さらに言えば、「経営陣の驕り」とでも言える状況がそれぞれの製造所に潜在し、それが製造所全体の製造や品質保証への対応姿勢に少なからず影響を与えていたのではないかと推察されます。つまり、“驕りがGMP対応の判断を狂わせた”といった状況にあったのではないでしょうか。過密な生産計画や人材確保の問題など、背景には様々な問題があったことは想像に難くありませんが、企業としての成長が続く中でつい慢心や驕りが生じ、製造や試験検査の現場が抱える違法性に絡む問題などは小さな問題に見え、慎重な対応に欠ける部分があったのではないかと思われます。

違法性が発覚し回収や業務停止処分になると、経済損失に加え企業の信頼性という最も大事なものを失うことになります。つまり、“驕りが信用や信頼性の失墜を招く”という構図が生じます。信頼性は医薬品企業のみならず、すべての企業にとって発展と継続性の確保という観点から何ものにも代え難い財産です。その最も重要なものを失うといった失態を、経営陣あるいは幹部職員の驕りによる判断ミスが招いていたとしたら、大いに反省し速やかに改める必要があります。とは言え、驕りは極めて人間的なものであり、誰にも共通する人間の本質に根ざしたものであること、また、これが企業の上層部に体質として沁みついていた場合、是正するのは容易ではありません。

改正GMP省令等に経営陣や幹部職員の責任が謳われ、“行政査察への担当役員の同席”が求められるなど、施策として様々な対策がとられてきています。こういった対策は経営陣の品質意識を高めるための一つの方策ではありますが、果たして実質的にどれほどの効果が期待できるのかは、今後の動向を注視するしかありません。もし、上記のように、この数年の不祥事の原因の根底に経営陣や幹部職員の驕りがあったとしたら、事はそんなに簡単ではないように思えます。
 

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