医薬品開発における非臨床試験から一言【第38回】

薬理作用と毒性

創薬においては、薬理作用と毒性の2つの作用を定量的に評価して、適正な用法用量を定めて、新薬の価値を創造しています。しかし、薬理作用の延長線上に毒性がある場合や、薬理作用と異なる作用として毒性を認める場合、逆に低濃度での毒性作用を生かした薬理作用の発見など、なかなか一筋縄ではいかないのが現状です。

非臨床試験は、臨床試験に先立つステップとして、臨床での薬理作用と毒性を科学的に確認することを目的とします。ここでは動物とヒトでの作用の一致、あるいは科学的に同じ作用を期待しますが、種差が課題となります。ヒトに近いサルを用いた研究が重要ですが、全てをサルの非臨床試験で行っても、薬理作用と毒性を総合的に評価することは難しいようです。一方のラット・マウスのようなげっ歯類での試験も限界があります。さらに代謝過程の種差により代謝物の曝露の違いによる毒性などいろいろな問題があり、ICHで協議されています。

ICH-M3(R2)「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」を参照すると、動物を用いたGLP試験での安全性評価において安全域を求めます。非臨床安全性試験で求められた無毒性量(NOAEL、No Observed Adverse Effect Level)が最も重要な情報となります。さらに、安全性薬理試験として、心血管系、中枢神経系、呼吸器系に対する作用の評価をコアバッテリーとして行います。

一方において、効力を裏づけるためのin vivo/in vitroでの薬力学的試験では、治療標的(組織/分子/遺伝子等)に対する開発候補物質の作用機序や効果を、探索試験として実施します。これらの安全性と有効性の評価より臨床に進めるか否かを判断します。

薬理作用をOn-TargetとOff-Targetの2つに分けて考えることができます。候補薬物の治療標的(Target)に対する薬理作用をOn-Targetと呼び、標的以外への作用をOff-Targetと呼びます。例えば、分子標的薬では、その薬剤の標的と考える作用をOn-Targetとし、異なる作用をOff-Targetとします。結果としてOff-Targetは、副作用に繋がることもありますが、まれに新しい作用の発見、新たなTargetの阻害、あるいは活性化による効果が見いだされます。つまり、Off-Targetは副作用の原因になることも多いですが、新たな薬理作用や治療標的の発見につながることもあります。

薬理作用と毒性の観点から、治療標的の探索について、考えてみます。ゲノム創薬による新薬開発では、遺伝子情報から効率よく治療標的を見出すことが課題で、評価系とリード化合物が重要となります。バリデートされた新しい評価系が構築できれば、そこに新薬が生まれる可能性が大きくなります。ただし薬理作用だけでは「薬」にならないので、同時に毒性(安全性)を評価できる仕組みを組み込みます。

創薬を考えるとき、どのような薬理作用を求めるか、いかに安全性を確保するか、の2面性を意識します。この時、有効性の特異性が重要となり、生理活性物質の作用点を特異的に制御するメカニズムを考えます。この作業仮説をProof of concept(POC)として明確化して、創薬を目指します。

作用点の特異性を高めるほど、有効性が高まり投与量が少なくなり、一般的に副作用も減少します。科学の進歩により酵素などのタンパク質から上位の遺伝子をターゲットにし、さらに遺伝子発現を行っているmRNAの制御など、有効性の特異性を高める試みが行われています。つまり、新規性の高いPOCを成立させると、新薬の生まれる可能性が高まり、有効性の特異性を上手く引き出すことができれば、安全性も高まっていきます。
 

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