新・医薬品品質保証こぼれ話【第15話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

品質確保への規制の影響

医薬品の品質確保は本来、科学に根差したものであることは疑う余地がありません。製剤設計や製造工程の設定、また、品質を評価確認するための試験方法の研究や確立、こういった医薬品の品質を保証するための一連の業務はすべて科学的根拠を基礎に進められます。一方、医薬品の製造販売を行う場合は関連の規制、すなわち、医薬品医療機器等法、GQP省令、GMP省令など薬事および品質確保に関する法令や関連の通知の遵守が求められ、医薬品の製造と品質管理に関しては、特にGMP省令が重要です。今回はこのような規制と品質確保の関係について考察を進めたいと思います。

医薬品の品質確保に関する規制の現況は、無通告査察に象徴されるように厳格化の方向にあり、これを受けて企業の査察対応も従前より周到さが求められています。また、欧米の新たな品質保証に関するガイダンスが頻繁に発出され、これのGMP要件化に伴う対応にも相応の時間と労力を要します。この動きは、一面において、“規制を強化することにより医薬品の品質をより的確に確保する”、という考え方の下に進められていると考えられますが、規制を強化すれば品質が向上するかと言えば、必ずしもそうではないと思われます。品質確保の要件はGMPの的確な運用をおいてほかにはなく、規制強化によりたとえ一時的に品質が向上したとしても、GMP対応が実質的に確たる状況に改善されなければ、規制の手が緩むとまた元の状態になる可能性も否めません。

規制強化の一因でもある欧米のガイダンスが次々とGMP省令に取り込まれる背景には、国際ハーモナイゼーションという観点もありますが、バイオ系医薬品の増加など医薬品自体の高度化と、それに伴い求められる製造管理・品質管理の精度など、時代が求める科学的根拠に基づく要請も関係していると考えられます。ただ、その一方において、こういった先進の科学技術の下に製造される医薬品以外の化学合成による医薬品や生薬製剤、また、ドラッグストアなどで市販されるOTC医薬品なども依然として存在し、バイオ医薬品等と同様に国民の医療に重要な役割を果たしています。日本の医薬品製造所の多くは、むしろこういった後者の医薬品を製造しているのが現状です。

日本の医薬品製造所は1975年には1,359社(内、医療用:330, 一般用:666, その他:363)あったのが、GMPの導入により漸減し、2005年には1,000社を切り、GMP適用の厳格化(要件の追加等)に伴い2019年には300社程度に減少しています(出典:製薬協DATA BOOK 2022)。このうち、従業員が100人以下の製造所が約3割あり、中小企業の多いことも特徴の一つです。また、製造される医薬品の種類も上記のように、バイオ医薬品から一般の化学合成医薬品、OTC医薬品、漢方生薬製剤など様々です。GMP規制が別立てになっているバイオ医薬品や無菌医薬品は別として、医薬品の種類や製造所の規模にかかわらず、すべての医薬品・製造所に対し、国際調和されたGMP規制(PIC/S-GMP)の下での製造管理、品質管理が求められるのが現在の医薬品監視行政の現状です。

欧米の規制当局などから発出されるガイダンスは本来、その時点の品質保証をより確かなものとするための参照、つまり、“推奨事項”としての位置づけと考えられます。しかしながら、インターネットの普及等により迅速に日本の関係者に共有され、次第に浸透し、時間の経過の中で規制の一環に取り込まれ、ついにはGMP要件化されるというのが昨今の大きな流れかと思われます。こういった、本来、推奨事項として提示されたものが規制となり、GMP要件の高度化(詳細化/厳格化)が進む中、これがすべての医薬品に一律に当たり前のように適用されるという状況にあります。

日本において医療(セルフメディケーションを含む)に供されるすべての医薬品の品質確保と安定供給という課題を総合的に考えた場合、こういった、言わば、“GMP規制の厳格化とその一律の適用”の流れが本当に望ましいのかどうか、少し疑問に思うこともあります。2005年の薬事法改正で全工程委託が認められるようになって以降、多くの医薬品が大手企業(製造販売業者)から中小の製造所に製造委託されるようになり、受託製造所の多くは受託品の製造に企業としての利益構造を求めるという傾向が強くなりました。しかし、その利益構造は決して堅牢なものではなく、新たな規制への対応や増産に伴う人材の確保、また、設備・分析機器の追加や更新に要する資金の調達等に苦慮する製造所も少なくないというのが現状かと思われます。
 

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