いまさら人には聞けない!微生物のお話【第29回】

16.2 EO滅菌工程の確立
1)要求条件の明確

一例として、次の状況を考えてみてください。

「あなたの会社は、今回新たに医療機器への参入を目的に、新規の医療機器を開発することになりました。それは無菌性が要求される高度管理医療機器です。製品に使用されている素材の特性から、湿熱滅菌や放射線滅菌は適用できません。産業規模の滅菌ですので、EO滅菌しか手段がありません。また製品の特性より、50℃を上限として滅菌を行いたいと考えています。滅菌工程を外注することも検討しましたが、最終的に社長の判断で、自社工場で滅菌を行うことになりました。そして新たな滅菌装置の購入も承認されました。あなたの会社では、今まで医療機器の滅菌を行ったことがありません。また会社は労働安全衛生やコンプライアンスに非常に厳格です。」

さて、製品の発売までに、何をしなければならないでしょうか?

もちろん現実には、第1種医療機器製造販売業許可取得、医療機器製造業の登録、製品の承認/認証、QMS体制の整備、予算の確保、滅菌管理を行ううえで最低限必要な微生物検査の設備、機器類も必要かもしれません。しかしそれらは解決済みであると仮定して、対象製品の滅菌に限って必要な要件を検討してみましょう。

大雑把な流れとしては、① 滅菌装置を選定/購入し、 ② 製造場所に据え付け、 ③ 装置がきちんと作動することを確認(IQ、OQ)し、④ 有効な滅菌工程の確立し、⑤バリデーション(PQ)を行い、製品の無菌性が保証できることを検証し、⑥ 必要な手順書類を作成/承認し、ようやく通常の滅菌作業に入ることができます。

滅菌を行うという観点から、これらのステップを一つ一つ見ていきましょう。

まず明らかにしなければならないのは、滅菌装置のユーザーとしてのあなたの要求です。将来的な増産を含めて製品の製造ボリュームはどのくらいか、1日当たり何回滅菌を行うか、製品の特性から温・湿度や圧力の上限はどのくらい設定すべきか、一次包装の形態はどのようなものか、どのような梱包状態で滅菌を行うのか、などを明確にすることが必要です。

たとえば1日当たりの最大製造数量を3,000個とします。 そして製品形状から500個を1パレットに積載し、その状態で滅菌を行うとします。 つまり1日当たり6パレット分の製品を滅菌処理する必要があることになります。 また工場は2交代で16時間稼働であり、この時間内に2回の滅菌を行うこととします。 この場合、単純に考えますと、3パレットの製品を一度に滅菌できるサイズの装置を導入し、それを1日2サイクル稼働させる、ということになります。もちろん現実には、装置の保守点検やトラブル発生時の対応も勘案する必要がありますので、ある程度の余裕を見ておく必要があります。

滅菌用のガスを調べたところ、EOが10、20、30% のものが入手できることが分かり、業者に相談したところ、20%EO/80%CO2 の混合ガスが最も入手が容易で使いやすいとのことで、これを採用することに決定したとします。

ここまでで明確になったのは:

①    滅菌器は、3パレットの製品を一度に処理できる容量であること。
②    1日に2回の滅菌を行うため、滅菌工程時間は作業準備や滅菌後のサンプルの取り出しもあるので、1サイクル6時間以内であること。(保守やトラブル時は3交代作業を行うこととする。)
③    使用するガスは20%EOと80%CO2 の混合ガス。そのため滅菌時の圧力は最大で250kPaが想定されるため、常用耐圧は300kPa以上であること。
④    滅菌工程中の温度は50℃を超えない範囲でコントロールできること。
⑤    目標滅菌温度が50℃以下であるので、ジャケットは温水循環タイプとする。
⑥    クリーンスチーム発生装置が設置されていること。
⑦    陰圧下でクリーンスチームの供給ができること。
⑧    滅菌装置にはISO11135などで規定されているセンサー類を設置すること。ただしバリデーション時に使用するセンサー類を設置するためのバリデーションポートが必要。
⑨    すべてのプロセスパラメータを記録できる記録装置がついていること。
⑩    滅菌装置を置く場所には、適切な局所換気や環境モニタリングの設備を導入すること。

 

これらが顧客要求事項になります。 さらに製造管理、メンテナンス、耐久性などの観点から、滅菌装置は両扉式にする、缶体はステンレス製、内部に攪拌用のファンを設置する、器内EO測定用のガスクロを設置する、などといった要求も出てくるかもしれません。また滅菌装置ではありませんが、付随する設備として、プレコンディショニング室、ガス抜き室も必要かもしれません

 

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