業界雑感 2016年12月
12月22日に閣議決定された平成29年度の予算案は、一般会計の総額が97兆4547億円と過去最大、このうち歳出では社会保障費が過去最大の32兆4735億円となった。高齢化による社会保障費 の膨張に歯止めがかからない中、夏の概算要求から1400億円抑制し、自然増を4997億円にとどめるという。この1400億円抑制の議論の中に「オプジーボ」の50%値下げによる196億円が含まれているのだが、業界 にとってさらに厄介(?)なのが毎年薬価改定問題である。2年に1回の薬価改定を毎年おこなうことで価格を柔軟に引き下げる案を軸として、新薬の原価など根拠となるデータの公表を義務付けたり、後発医薬品 の価格を抑える方策もあわせて議論し薬剤費支出を抑える方針のようだ。
昨年8月に後発薬使用促進で後発品比率80%を早期に達成するとした政府目標が発表されて以来順調にきていた後発品シェアの伸びも、ここにきて足踏みを始めたように思える。もともと 80%を達成した後の姿が見えないままで、薬剤費抑制だけが目的の80%なのだから、ジェネリック業界としては梯子を外される形での毎年薬価改定、後発医薬品の更なる価格抑制ということになる。 加えて、厚労省は後発薬メーカーに対して、PIC/S対応も含む品質の確保だけでなく、安定供給の確保を強く求めている。後発薬使用促進のためには絶対条件ではあるのだが、PIC/Sはソフト面だけでなくハード面での対応も 求められ、安定供給では原薬のダブルソース化などがガイドラインで示されている。いずれも医薬品のものづくりにはコストアップにつながる重要な課題である。
特に原薬の確保についてはジェネリック原薬の半数以上を中国・インド・韓国といった国々からの輸入に頼っている現状があり、品質リスクだけでなく、ビジネスリスク、カントリーリスクも抱えている。原薬の供給が止まれば、代替品の評価や製造承認の変更手続きで最短でも3年程度の年月は必要となるので、ジェネリックメーカーとしてはリスク低減のために取引価格政策だけでなく、監査や査察の強化のみならずセカンドソースの調査など、負担は単に費用だけにとどまらずに人的負担も増大してきている。
度重なる薬価改定の洗礼を受けてきた長期収載品についても、なかには供給責任の名目の下で原価割れにもかかわらず製造・販売を続けてきている品目も数多く扱ってきた。このような品目にジェネリックは参入しないので、ベーシックドラックとして供給し続けるしかない。中には今のレギュレーションではとても製造販売承認が得られるとは思えないような製造方法やノウハウで製造されているものもあるのだが、レギュレーションに合わないからといって効果がなかったり健康被害が発生したりということもなく、長年愛用されてきているという理由でお目こぼしとなっているのだろうが、製造販売を続けるメーカーにとっては大きな負担であることは間違いない。
オプジーボに端を発した高額薬剤問題は毎年薬価改定の議論に進展している。先発薬メーカーは長期収載品に見切りをつけ、抗がん剤や抗体医薬など高薬価が期待できる新製品開発に注力する。アンメットメディカルニーズにおける治療満足度と薬剤貢献度の関係でブロックバスター化が期待できる領域が少なくなってきたからと思えなくもないが、現在の薬価算定基準がそういった業界の流れにそぐわなくなってきているのではと危惧したりもする。
本来「もの」の価格は需要と供給の関係や、費用対効果で判断されるべきものである。だから一般の製造業ではより良いものをより安く、安定的に消費者に提供するために腐心するのである。混合診療を認めることや自由薬価制度への転換は現在の健康保険制度の根幹を揺るがすことになるので議論は慎重に進める必要があると思うのだが、長い間薬価制度に守られてきた日本の薬業界がグローバルに挑戦していくためには、そういった議論を真剣に始める時期にきているのではないだろうか。そしてメーカー各社がその製造コストを意識したときに初めて薬のものづくりの革新が生まれ、さらなる成長の機会を得るのだと思う。
※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。
昨年8月に後発薬使用促進で後発品比率80%を早期に達成するとした政府目標が発表されて以来順調にきていた後発品シェアの伸びも、ここにきて足踏みを始めたように思える。もともと 80%を達成した後の姿が見えないままで、薬剤費抑制だけが目的の80%なのだから、ジェネリック業界としては梯子を外される形での毎年薬価改定、後発医薬品の更なる価格抑制ということになる。 加えて、厚労省は後発薬メーカーに対して、PIC/S対応も含む品質の確保だけでなく、安定供給の確保を強く求めている。後発薬使用促進のためには絶対条件ではあるのだが、PIC/Sはソフト面だけでなくハード面での対応も 求められ、安定供給では原薬のダブルソース化などがガイドラインで示されている。いずれも医薬品のものづくりにはコストアップにつながる重要な課題である。
特に原薬の確保についてはジェネリック原薬の半数以上を中国・インド・韓国といった国々からの輸入に頼っている現状があり、品質リスクだけでなく、ビジネスリスク、カントリーリスクも抱えている。原薬の供給が止まれば、代替品の評価や製造承認の変更手続きで最短でも3年程度の年月は必要となるので、ジェネリックメーカーとしてはリスク低減のために取引価格政策だけでなく、監査や査察の強化のみならずセカンドソースの調査など、負担は単に費用だけにとどまらずに人的負担も増大してきている。
度重なる薬価改定の洗礼を受けてきた長期収載品についても、なかには供給責任の名目の下で原価割れにもかかわらず製造・販売を続けてきている品目も数多く扱ってきた。このような品目にジェネリックは参入しないので、ベーシックドラックとして供給し続けるしかない。中には今のレギュレーションではとても製造販売承認が得られるとは思えないような製造方法やノウハウで製造されているものもあるのだが、レギュレーションに合わないからといって効果がなかったり健康被害が発生したりということもなく、長年愛用されてきているという理由でお目こぼしとなっているのだろうが、製造販売を続けるメーカーにとっては大きな負担であることは間違いない。
オプジーボに端を発した高額薬剤問題は毎年薬価改定の議論に進展している。先発薬メーカーは長期収載品に見切りをつけ、抗がん剤や抗体医薬など高薬価が期待できる新製品開発に注力する。アンメットメディカルニーズにおける治療満足度と薬剤貢献度の関係でブロックバスター化が期待できる領域が少なくなってきたからと思えなくもないが、現在の薬価算定基準がそういった業界の流れにそぐわなくなってきているのではと危惧したりもする。
本来「もの」の価格は需要と供給の関係や、費用対効果で判断されるべきものである。だから一般の製造業ではより良いものをより安く、安定的に消費者に提供するために腐心するのである。混合診療を認めることや自由薬価制度への転換は現在の健康保険制度の根幹を揺るがすことになるので議論は慎重に進める必要があると思うのだが、長い間薬価制度に守られてきた日本の薬業界がグローバルに挑戦していくためには、そういった議論を真剣に始める時期にきているのではないだろうか。そしてメーカー各社がその製造コストを意識したときに初めて薬のものづくりの革新が生まれ、さらなる成長の機会を得るのだと思う。
※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。
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