医薬品開発における非臨床試験から一言【第30回】

文書管理システムの考え方

創薬研究での文書と文書管理とは何かについて考えてみます。文書管理の原点は、申請資料の信頼性の基準に記載されています。薬事法施行規則の第43条において、申請資料は結果に基づき正確に作成されたものであること、この資料には安全性等を疑わせる結果も含めていること(網羅性)などに加えて、根拠資料の保存性が求められています。日本の信頼性基準に限らず、申請資料は過不足のない網羅的な記載を心がけ、確実な資料保存を行うことが大切です。今回は、これらの文書管理システムの考え方について示したいと思います。

「網羅的な記載」について、治験薬概要書(IB,Investigator's Brochure)を取り上げてみます。概要書は治験開始時に初版が作成され、治験開始の資料としてPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構、Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)に提出します。網羅性は、開発を開始する経緯をまとめた情報と、得られた非臨床試験結果の概略が含まれていることは必須ですが、それで必要十分ではありません。「資料」の出発点となる論文や試験報告書は、執筆者が異なり、言語が異なっている場合もあります。さらに概要書は体系的な文書にまとめられていることが肝要です。つまり、この概要書は評価者であるPMDAはもちろん、治験施設の関係者にも容易に理解される文書であることが大切です。

非臨床試験の資料は、多くのSOP(標準操作手順書、Standard Operating Procedures)を運用することで、再現性のある結果と資料の保存性を確保しています。
試験行為の標準化(SOP化)は、難しい課題です。幾度、試験を行えば標準といえるか、標準と言える基準も定めているか、誰が標準と決めるか、標準を決めるための手順書も必要か、などの悩みを持ちつつ、担当者はSOP作成に取り組みます。計画書から始まり報告書までの手順書、個々の実験操作の手順書、データの記録・保存の手順書等になります。試験責任者は、SOPに従って実験を適切に計画して実施し、資料(データ)を適切に収集・保存し、まとめて報告します。そして、正確な実験であることを保存資料と保存過程の記録で示すことが大切です。

非臨床試験の資料は、一般的に「文書規定」のようなSOPで文書の記載フォーマットと表記方法を固定し、この基準に従って試験計画書、生データ、報告書を作成します。
最初の治験薬概要書は、定形的な方法で、非臨床試験の報告書を基に作成され、十分に統一的な文書として完成します。その後は、臨床試験の進捗に合わせて、順次、適切な非臨床試験と臨床試験の結果を加えて、概要書は改定を繰り返します。このような長い創薬研究の期間を考えると、基準となる文書規定も徐々に変化すること、作成者の文書力によって表現内容が異なること、さらに外部施設への委託試験は文書規定が異なること、など、同質の文書(報告書)が集まるとは限りません。特に委託試験の報告書は結果の解釈が異なる場合もあり、十分な協議が必要です。さらに概要書文書にまとめるときは、幾つかの報告書を繋いでストーリーを作って、1つの結論を示すことになります。結果の解釈の科学性に加えて、表現の妥当性が求められます。つまり、理解がブレない表現が必要です。概要書の場合は船頭多くして・・のような場合と、結論先行の文脈など、統一性に欠ける文書は、読者が変わると理解が異なり、疑問が残ることもあります。

対策としては、創薬研究での資料作成に当たっては、開発の初期資料から全て文書規定に沿って記載し、個々の試験結果は分かりやすい記載を心がけることが大切です。どの断片の文書も常に理解できるような内容であるようにしておきます。10年前と今の報告書を見比べて、同じ感覚で読めないと、医薬品の長い研究開発の過程では、示された結果(表現)をどのように解釈するかの議論になります。あなたの作成した資料は大丈夫でしょうか。部署間、年代間、さらには会社間の違いなども課題で、海外データと、国内データの表現の違いも気になります。少なくとも、全ての試験結果の表現を統一するように心がけて創薬研究を進めたいものです。
 

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