ドマさんの徒然なるままに【第37話】不可思議な質問・Part 2


第37話:不可思議な質問・Part 2

第36話「不可思議な質問・Part 1」の続きです。今回も、古田土真一先生による治験薬関係のGMP Platformオープンセミナー*1の理解を深めるサポートの一部として、治験薬関係での質問や相談の中から「えっ!」、「うーん!?」と思えるものをチョイスして紹介します。

ちなみに、先生曰く、治験薬関係での質問や相談に多いのは事実であるが、市販の医薬品でも類似の質問や相談を受ける場合もあるとのことから、一般的な質問や相談だと思ってお読みください。筆者としてもそれを意識して書いております。



● 参考品や保存品の保管は必要ですか?

率直に言おう。参考品(Reference sample)と保存品(Retention sample)の目的とするところに、医薬品と治験薬とで差がありますか? 何か問題があって、その品質を確認したい、試験検査したいということに対して何も差異は無い。だとしたら、それ以上は“言わずもがな”ですよね。質問するだけヤボと言ったら失礼でしょうか。

自分たちは治験プロトコールに沿っての一過性の使用と思い込んでるんじゃないかと想像しますが、いかがでしょうか。参考品・保存品に限らず、治験薬なので今回ポッキリと言った安易な発想が根底にあるのであれば、そういった考え方自体がリスクですし、痛い目に遭いますよ。

ちなみに、“参考品”については、昨年8月から施行された改正GMP省令で、“保存品”と区別して初めて明記されましたが(それ以前からPIC/S GMPではAnnex 19として要件)、添加剤や資材も含まれますから注意してくださいね。治験薬の場合、処方が未確立な状態であることや治験プロトコールに合わせた一過性の特殊包装ということから、添加剤や資材を残しておくという発想そのものが薄いと言わざるを得ませんので。

あるとき予想外の品質問題が発生してしまった。どうも包装資材に問題があるようだと疑われた。焦って探したが、自製造施設には残していなかった。サプライヤーに同ロット(同管理単位)のものがあると思って連絡したら、売り上げが悪いなどの理由により製造中止になっており、保管もされていなかったなんてことになっていたら、どうするんでしょうかねー。そもそも資材については、医薬品用途限定として製造されていることは少なく、法規制としてのGMPが求められている訳でもない(筆者の知る限り、通常はISOでやっています)ので、当該資材については、将来の市販品も意識し先々の安定供給としてもサプライヤーの選定込みで確認しておくことが大事ですよ。

治験薬は将来の承認申請、ひいては将来の医薬品としての製造販売のための治験(臨床試験)という過程で使うものだと強く意識しておくことが、治験薬のGMP*2を理解し実践する上で大事なことですよ。

なお、本件に限らず、GxPの要件については、「何をやるかの行為」ではなく、「何のためにかの目的」を考えましょうね。そうでないと、いつになっても進歩が図れませんよ。



● 治験薬においてもGDPは求められますか?

GDPと言うと、何となく偽造薬や盗難が連想されますが、治験薬の存在そのものが、開発初期であれば(治験依頼者となる開発会社にも依りますが)極秘じゃないんでしょうか。治験ですから、限定された時期に、限定された施設での使用ですよね(一般的にはクローズドで実施されることが多い)。まして名前も付いていない(販売名を付けたら違法です)、人知れずのモノを盗んだって売ることができない(要は換金できない)なら意味ないし、偽造したところで、開発会社への嫌がらせでしかないですよね(開発競争会社として直ぐにバレる)。

温度管理はって? そこがポイントですよね。開発初期であれば、完璧と言えるほどの安定性試験は実施されていませんよ。そもそも処方も確立していませんし。遡れば、原薬だって製造法が未確立だから不純物プロフィールも不明瞭。そう考えれば判りませんか? どれだけ安定か判らないからこそ、保管や輸送での逸脱が問題になるんですよ。GDP云々以前に、デポ(治験薬の保管配送センターだと思ってください)と交付(治験施設への配送)での温湿度(湿度依存性が無ければ、湿度については当該温度下での相対湿度である程度許容可能)が問題になるんですよ。

開発の早い段階であればあるほど、当たり前だが治験薬の安定性データが乏しい。そのため温度逸脱等による“Stability Budget”*3も取れていない。だからこそ、温度逸脱が致命傷になる可能性がある。なぜか? 安定性が曖昧なことからも品質への影響が読めない、もし治験で何か事が生じたら、それが品質に起因するものか、そもそもの副作用なのかも分からない。有効性のデータにも疑義が生じる。そうなれば、治験が総崩れってことになりませんかねー。そうしたら、間違いなくCMCのせいだってことになりませんかねー。CMCの部長さんと担当者、人生潰しますよ! お気をつけあそばせ。

ちなみに、本邦において2018年12月28日付で発出された「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」*4においては、治験(原)薬は適用範囲外であり、それ自身に法的拘束力は無いとされているが、そういう問題じゃないですからね。



● 治験薬においてもPQSは求められますか?

ICH Q10、所謂PQS(Pharmaceutical Quality System:医薬品品質システム)の末尾にアタッチされている付属書 2(Annex 2)*5をよーく見てくださいな。図の上部のGMP領域の開発部分に「治験薬(Investigational Products)」と示されていませんか? この治験薬は、本邦で言えば「治験薬GMP基準」のことですよ。欧米では、治験薬GMPという特別なGMPは無く、市販品と区別なくGMPが適用され、あくまで治験薬特有の要件(主にはGCPに関わる事項)についてのみ言及されているため、このような『GMP領域の中での開発部分』として示されているのですよ。

形式や見た目で運用すると碌なことが無いという、良い例です。その目的を踏まえて、必要なことを実践してくださいね。そもそも普通に考えれば、治験薬か市販薬か(承認の前か後か)とは無関係に、ヒトに投与するということ自体は同じなんじゃないですかね。だとすれば求められるものも同じはずですよ。



● 治験薬においてもData Integrityは求められますか?

治験薬だからとか、GMPだからとかではなく、科学的根拠として必須なんじゃないですか? Data Integrityと言うと難しく感じますが、要はデータの信頼性ですよ。信頼性に欠けるデータで品質の保証ができますか? まして、治験薬はGCP下での治験に用いるのですよ。もし用いる治験薬のData Integrityに疑義が生じれは、その治験薬の品質が疑われ、当然それを用いた治験のデータに疑義が持たれることになりますよね。そうなれば、貴社の治験そのものが中止ということにも成りかねませんよ。治験薬と言うモノは、そういう宿命を帯びたモノなのですよ。肝に銘じてくださいな。

そもそも日本では、薬機法施行規則第43条(申請資料の信頼性の基準)*6なるものが規定されていることをご存知ですか? 概要だけ述べれば、「製造販売の承認に係る資料は、GLP省令及びGCP省令に定めるもののほか、次に掲げるところにより、収集され、かつ、作成されたものでなければならない。」とされ、続いて「① 根拠資料(生データ)に基づき、正確に申請資料が作成されていること(正確性)。② 不都合なデータを含めて、すべてのデータが申請資料に記載されていること(完全性・網羅性)。③ 承認の可否の判断まで、根拠資料(生データ)が保存されていること(保存)。」と記されている。

これを申請資料における品質関係データのみならず治験薬GMP基準に及んで準拠するものと捉えるか否かは読者の判断に依るが、筆者としては、求められる本質は治験薬GMPであり、治験薬に対するData Integrityであると理解している。少なくとも、本邦の治験薬GMP基準もGCP省令に紐づく局長通知ですからね。開発品故にデータが不十分な可能性があり、自己都合による品質だけ云々で済まされない状態(ヒトに対する安全性と有効性を市販品以上に注意すべき)であるからこそヤバイと考えるのが妥当なんじゃないでしょうか*7

ちなみに、海外での治験については、治験薬の製造そのものが医薬品と同じGMPで運用されていますので、Data Integrityについては“言わずもがな”ですから。敢えて言えば、GCPもGLPもすべてData Integrityが求められますから。ご注意ください。
 


 

どうでしたか? 前話でも言いましたが、笑えるのであれば、結構なことです。ただ、本当に笑っていられるんですよね? ほんの少しでも思い当たる節があるのであれば、かなりヤバイとも言えますよ。前話と本話の2回に亘って治験薬関係で多かった質問や相談を中心に話を進めましたが、もし機会があれば、市販の医薬品も含めて他のビックリするような質問や相談を紹介したいと思います。

最後に、もし読者の中で来月に予定されている古田土先生の治験薬セミナー*1の受講を希望される方がおられれば、前話と本話が受講内容の理解を深めるための有用な情報となりますので、事前にお読みいただくことを強くお勧めします。貴社(貴殿)として確認も含めて質問し易くなるでしょうし、その深みも増すんじゃないかと思います。



では、また。See you next time on the WEB.





【徒然後記】
熱海つるやホテル
あれは、私が小学校入学前なので5歳くらいの時であったと思う。記憶が途切れ途切れの部分はあるが、年齢の割には結構シッカリと覚えているほうの話である。
実家は開業薬局を営んでいた。当時、開業薬局は問屋さんからの接待や招待が許されていた。ある時、東京観光と熱海温泉の一泊二日の招待旅行があった。理由は分からないが、なぜか親父は私を連れて行った。宿泊は、当時熱海温泉の中でもトップクラスの「つるやホテル」、“お宮の松”の目の前にある最高立地の豪華ホテルである。当時は極めて珍しくエントランスから2階に上がるエスカレーターが付いていたと記憶している。田舎生まれの私にとっては人生初めてのエスカレーター。
招待ということで、夜は芸者をあげての大宴会。子供心にその華やいだ雰囲気が何となくワクワクした興奮を感じる。普段は飲ませて貰えないジュースは飲み放題。
宴会後、親父が芸者の一人をホテル内の寿司バーに誘う。私はその芸者さんの膝の上に抱かれた。お袋さんとは異なる、いい香りのする、ホワッとした温もりを感じていた。私はそのまま眠りについてしまったようだ。
今にして思えば、私は親父の芸者ナンパのダシに使われただけかもしれない。でも、なぜかその芸者さんの優しい抱っこが忘れられない。顔などまったく覚えていないし、年齢など知る由もない。ただ、その感覚だけが今でも忘れられない。
翌日目が覚めた。布団が冷たい。おねしょしていた。ホテルの方、ゴメンなさい。


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*1:CM Plus社/GMP Platform オープンセミナーとして、2月17日(木)に古田土真一先生による「オールアバウト治験薬のGMP ~治験薬の品質保証のために知っておきたいこと~」と題するセミナーが開催される。治験薬GMPも含め治験薬の全体を勉強したい方には打ってつけである。受講申し込み等の詳細は、下記URLのウェブサイトを参照のこと。
https://www.gmp-platform.com/seminar_detail.html?id=428
 
*2:本邦において、治験薬(狭義として正確に言えば「被験薬」)は薬機法第二条における「医薬品の定義」に当てはまらず、「治験に供する薬物」として規定されていることから、法的にGMP省令(あくまで適用は、その正式タイトルにあるように医薬品および医薬部外品です)を適用できない。ここでは海外も含めた開発段階としての治験(臨床試験)に用いる薬物全体を意図していることから、本邦でのGCP省令に紐づく局長通知“治験薬GMP(被験薬は勿論のこと、プラセボ・対照薬などにも適用されます)”と限定されてしまう誤解回避のために、“治験薬のGMP”として“”を挿入して記している。
 
*3:Stability Budgetとは、「保管・輸送の各プロセスに割り振られた、規定温度範囲外(温度逸脱)に曝されても品質に影響を及ぼさない許容可能な温度範囲と時間で、安定性試験(長期・加速・苛酷・温度サイクル)データに基づいて設定され、治験薬製造施設から治験実施施設までの積算時間+バッファー時間により算出される」ものである。
 
*4:平成30年(2018年)12月28日付「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000466215.pdf
 
*5:ICH Q10
・日本語版「医薬品品質システムに関するガイドライン」
 https://www.pmda.go.jp/files/000156141.pdf
・英語原文「Pharmaceutical Quality System」
 https://www.pmda.go.jp/files/000156592.pdf
 
*6:薬機法施行規則第43条(申請資料の信頼性の基準)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=81006000&dataType=0&pageNo=2
 
*7:承認申請用データとGMPの乖離については、第34話「不可解なPV」でも述べているので、合せてご参照ください。

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