医薬品開発における非臨床試験から一言【第23回】

薬物性肝障害の評価ポイントについて。
薬物性肝障害の評価ポイント
医薬品の安全性評価の中で、薬物性肝障害(DILI; drug-induced liver injury)は難しい課題です。非臨床試験では特段のイベントもなく、無事に臨床ステージに入った後に、患者さんを用いた試験あるいは市販後においてDILIに遭遇することがあります。DILIは、このように治験を含めて臨床で遭遇する疾患のため、原因薬物の投与を中止すれば、症状が治まることが多いと思われます。しかし、DILIから劇症肝炎となった疑いがある症例もありますので慎重な対応が肝要です。
そこで、非臨床では、医薬品候補化合物の段階から、DILIを想定したスクリーニング試験を行い、さらに動物試験での探索、臨床試験での対策も必要です。そして、臨床では、救急救命領域を中心にDILIの診断基準についてスコアリングが考案されています。一方で、その基準でも明確な診断結果が得られない症例もあり、肝疾患専門医が診断に加わり、より正確な診断と適切な治療方針を決定すべきとされています。
DILIの臨床病態には多様化がみられ、薬物が肝障害を惹起し得るだけでなく、患者の遺伝的要因、体質、環境要因などにも依存することから、その病態と臨床像は様々です。薬物性肝障害(DILI)はその病理学的所見から、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、及び両者の混合型に大別されます。
さらにDILIを分類すると、発症機序からは、薬物か、その代謝物による直接的な作用による「本質性肝障害、intrinsic DILI」と、個人の体質に基づく「特異体質性肝障害、idiosyncratic DILI」に分類されます。特異体質性肝障害は、代謝性特異体質性「metabolic idiosyncrasy」とアレルギー性特異体質性「allergic idiosyncrasy」に分類されます。本質性肝障害は、欧米で発症頻度が高いAcetamiophen(APAP)などになります。
反応性代謝物と肝障害についてまとめます。
肝臓は薬物代謝・解毒を担う主たる臓器です。肝臓における薬の解毒反応は、薬物代謝酵素のチトクロムP450がそのほとんどを担っています。しかし、P450などの薬物代謝酵素は、解毒反応のみならず化学的に反応性が高い反応性中間体を生成する「代謝的活性化、metabolic activation」という反応を触媒する場合があります。
反応性代謝物は、核酸や細胞構成タンパク質などの生体内分子に共有結合し、アダクト(付加体)を形成すると、ミトコンドリアの機能障害、胆汁酸の排泄阻害、細胞ストレスなどにより、細胞毒性を発現します。そして、反応性代謝物は肝臓に高濃度で存在する還元型グルタチオン(GSH;glutathione)のような防御系スカベンジャーによりトラップされ無毒化されます。
我々が経験した、代謝活性化の事例として、臨床試験でOT-7100投与によって生じたヒトの肝機能障害の事例を紹介します。OT-7100は神経障害性疼痛に抑制作用を有するピラゾロピリミジン誘導体です。OT-7100はラットおよびイヌでは特に毒性所見を認めず、臨床開発に進みましたところ、長期投与によりASTおよびALTの上昇などの肝機能障害の症例が認められました。
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