再生医療系若手技術者のための製造文書作成術【第6回】

「製造文書における品質マニュアルについて」

 本稿は、これから再生医療に関わる若手技術者の方に向けた、製造文書を書くための具体的・実践的なTipsになっています。初心者の方は勿論ですが、今現在作成に携わっておられる若手の方なら、最後のポイントをチェックしてみるだけでも役に立つように心がけました。
 第6回となる今回は、改めて製造文書のレベル構成、特にやっかいな「品質マニュアル」について述べておきます。

【文書のレベルと最上位文書】
 当コラムで最初に「SOPの書き方」について述べたよう、製造関連文書を作成する際、最初に機会に恵まれるのが、SOPでしょう。作成する方も、SOPの上に「製造管理」や「衛生管理」の基準書があることは、およそ理解されていることと思います。また、SOPの下にぶら下がるかたちで、専用の様式や記録書が定められているのも、分かりやすいところです。
 文書のレベル感については、当コラムの第四回「文書の種類とコンテクスト」でも触れましたが、一般にこの構成の最上位にくるのが「品質マニュアル」になります。そして、もっとも製造の意識からこぼれてしまいやすいのも、この「品質マニュアル」です。
 品質マニュアルは、品質マネジメントシステムについての仕様書として位置づけられます。現在、品質マネジメントシステムは、ICHガイドラインによって製薬、原薬、バイオなどの業界においても要求されるものですが、存外、これだけは空位になったまま定められていないとか、製造文書中に見たことがないという方も多いかもしれません。
 というのも、品質マニュアルは、製造だけでなく「組織全体」にかかるQMS文書であることから、GMPといった製造文書の括りの中には、長いこと不在だった文書だからです。現在、GMPはICHのQ8で、品質リスクマネジメントはQ9でガイドラインが定められており、それを補完する包括的アプローチとして医薬品の品質マネジメントシステムがQ10でまとめられています。
 品質マニュアルは製造のみならず、組織全体が品質を担保するための仕組みに関して網羅していなければならず、その分イメージ的にも大きく、掴みづらいかもしれません。見たことはあるけど、ぱら見、ちら見しただけ、というケースもあり得ますね。
 今回はその意味合いと存在意義をつかんでいただければOKです。QMSにおける一般的な文書体系を、図1に示します。


図1・QMS文書体系


【ISOの功罪】
 さて、このコラムの読者の方が、製造文書体系を一考した際、QMSや品質マニュアルを調べてみようと、ググってみたとしましょう。
 おそらく「医薬品」と一緒にググらない限り、出てくるのはISOの話です。そう、QMSには、品質マネジメントシステムの国際規格「ISO 9001」があります。したがってどこまでもISOの話をされ、品質マニュアルについては、ISO9001を標準とした品質マニュアルの話が続いてしまいます。これはぶっちゃけ不要です。
 このISO9001における品質マニュアルは、2015年版規格がまとまるまで、非常に冗長で、システムを把握しづらい文書になってしまった感がありました。正直、ググったところで、めまいと吐き気がするだけです。2015年規格では品質マニュアルに対する要求はなくなり、品質マニュアルそのものはいらなくなりましたが、この傾向はいまだに継続しています。
 何故、品質マニュアルの要求がなくなったのかといえば、「品質マニュアルの意味をなさない品質マニュアル」――具体的に言うと、ISO規格の要求事項の目次および文言をそのままコピペして作成した文書が横行したというのが一因です。現在は「品質マニュアルでなくていいから、プロセスの運用を維持するために必要な文書を作っておいてね」という要求になっています。
 ISO9001規格はおバカさんなの?という気すらしてきますが、おバカさんなのは、高尚なシステムを作ろうとしては、毎度すぐ手を抜こうとする人間側とも言えます。
 
 品質マニュアルは、どうしても必要なものです。しかし、人様に「こう作っておけばいいよ」と言われ、コピペして意味が生じるものではありません。だからこそ、どうしても必要なのです。
 個人的に、ISO9001規格は、この作成を助けようとして、挫いたという他ありません。もし読者の方の企業にISO9001規格の品質マニュアルがあるのなら、今のシステムを踏襲すればよいと思います。それで動いているのですから、差し支えありません。しかし、ないのであれば、ISO9001規格の品質マニュアルを参考にするのはお勧めしません。
 先にお話ししたICH Q10は、ISOを参考にしています。ですから参照するなら、ICH Q10のほうにしてください。

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