医薬品品質保証こぼれ話【第48回】

医薬品製造業者の匿名性に潜在するリスク
2005年の薬事法改正において“医薬品製造販売業”が新たに規定され、医薬品製造にかかる業態が医薬品製造業と医薬品製造販売業の二業態制となり、当時、業界関係者に大きなインパクトを与えましたが、この改正において、もう一点、重要な改正点がありました。それは、医薬品製造業者(以下、「製造業者」)の名称の表示義務がなくなったことです。その理由は、医薬品の品質・有効性・安全性に関する最終責任を負う立場となった医薬品製造販売業者(以下、「製販業者」)が医薬品の品目の承認保有者となったことにより、製造業者に変わり製販業者の名称の表示が義務付けられたことに拠ります。この結果、2005年4月以降は、医薬品を実際に製造する製造業者の名称を医薬品の容器や個装箱、また、添付文書に表示する義務がなくなりました。つまり、医薬品の“実際の製造業者の顔が見えない”形となり、言わば、“製造業者の匿名性”が容認されることとなりました。
一般に、“匿名性”には自由な発言がしやすいというメリットがある一方、情報発信者の特定が困難となるためネット上などにおける、無責任な発言や誹謗中傷の原因になるとの考えから問題視される側面もあります。製造業者名の表示が不要とされた理由は、上記のように先の法改正で医薬品の品質等の最終責任を負う製販業者の名称の表示が義務づけられたこと拠りますが、社会全体を見ると、製造物への責任の所在を明確にするという観点から、多くの製品において実際の製造業者名が表示されているのが現状です。まして医薬品は人の生命にかかわる重要な製品であり、品質や安全性に問題が生じた際、迅速に原因究明や改善を進めるために製造業者の速やかな特定が求められます。しかしながら、現在の法令(薬機法)の下では、実際の製造業者名の表示が不要とされているため、緊急を要する問題が生じた場合は先ず製販業者が医療機関等から連絡を受け、製造業者と連絡を取り合いながら対応することになります。
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