日本のチョウが危ない!!

 昭和30年代に小学生だった方には、夏休みの宿題にチョウの標本を作成した記憶のある方も多いのではないでしょうか。私もその年代で、幼い日々を昆虫少年として過ごしました。父がチョウの採集をしていた影響で、物心がついたときには既に捕虫網を手にしていました。学校帰りに見慣れないチョウを見ると、ランドセルを放り出し捕虫網に持ちかえ、走って現場に戻ることも度々でした。当時の学校教育の方針は「採集と標本作製」を推奨するものでした。
 
 しかし、それが「飼育と観察」を中心とする教育に変換され、近年はチョウを採集することは悪いことと考える人が多くなってきたようです。この変化は自然保護思想の浸透によるとされていますが、本当でしょうか?自然の中に出る機会を失った子供たちは、自然に無関心になってしまったようです。小学生を集めて自然観察をすることが多いのですが、虫を怖がって持てない子供が多いことにはがっかりさせられます。持てない虫をじっくり観察できるでしょうか?好きになることができるでしょうか?
 
 人々が自然に無関心になり、その変化が見えなくなっているうちに大変なことが進行しています。日本には約240種のチョウが生息しています。今までに絶滅した種は無いものの、2012年8月に環境省が発表したレッドリストには69種のチョウが掲載され、その内37種は絶滅のおそれのある種とされています。このまま対策をとらないと、実に30%近い種が日本から消えてしまうかもしれないのです。
 
 では、いつ頃からこんな状況になってしまったのでしょうか。群馬県のミヤマシジミというチョウの例を紹介します。


 ミヤマシジミは環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に分類され、全国的にも絶滅が危惧されているチョウです。1950年代以前、群馬県70市町村のうち32市町村で生息が確認されていました。河川敷でしたら、どこでも見られるチョウでした。しかし現在、生息が確認できるのは群馬県内でただ1か所、それも古い土手の300m位の範囲だけです。1970年頃までは26市町村で確認することができたのですが、ここ40年ほどで急激に減少してしまい、直近の10年は減少スピードが加速しています。他のチョウも同様の傾向です。まさに1980年(昭和55年)代以降、学校教育の方針が変わり、自然に触れる機会が少なくなっていた間に進行した事実です。
 
 日本のチョウの絶滅をくい止めるには人々が自然と関わる機会を増やすことが必須で、チョウを指標(バロメーター)にすることにより日本の自然を知り・守ることができると考え、「特定非営利活動法人 日本チョウ類保協会」を設立しました。現在650人以上の方々が全国から参加して活動しています。
 チョウは奇麗なので目につき易く、好きな人が沢山います。また、日本で見られるチョウは全部でも260種くらいなので、生態が良く調べられていて好む場所も分かっています。色々な所にチョウが棲んでいますが、草むらにいるチョウ、林にいるチョウ、都市にも住めるチョウと場所によって見られるチョウの種類が違うのです。
 
 このようにチョウのモニタリングは環境変化のバロメーターとして最も適していると言われています。チョウが消えると言うことは日本の自然、生物多様性が危機にあるとも言えます。しかし、残念なことに日本ではチョウのモニタリングデータの蓄積が不足しています。英国ではチョウのモニタリングが継続的に行われ、毎年15,000人以上の一般の方が参加し、モニタリング結果は集計され自然の変化、気候変動の影響などが評価され発表されています。


 日本チョウ類保全協会では、日本でも多くの方々に参加していただけるチョウのモニタリングプログラムの構築を検討しています。ツールとして先ず、『フィールド ガイド日本のチョウ(誠文堂新光社)』を出版しました。野外でチョウを見たとき、誰でも簡単に名前を知ることが出来る図鑑です。図鑑からチョウに興味を持ってくださった方が参加できる「庭のチョウ類調査」も実施しています。もっとも身近な環境である庭でのチョウの調査を通して、自然環境の全国的な変化をとらえることが目的です。気軽に調査いただけるよう、インターネットで参加できるウェブサイト(https://butterfly-garden.jp)をオープンしました。
 これらモニタリングプログラムに多くの方が参加していただくことにより、協会の思いである「チョウをバロメーターに日本の自然を守ること」が実現されることを期待しています。かつての昆虫少年の方、自然に少しでも興味のある方、ぜひ一度、日本チョウ類保全協会のホームページをのぞいてみてください(http://japan-inter.net/butterfly-conservation/)。
 
 皆さんもチョウのサポーターになってみませんか。わたしたちは、活動に参加したり、活動を応援してくれる方々を募集しています。


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