医薬品品質保証こぼれ話【第26回】

2020/12/11 品質システム

原因究明の考え方

アメリカ大統領選挙が終わり、オバマ政権時代に副大統領を勤めたバイデン氏が、接戦の末、トランプ大統領を押さえて当選を確実にしました。ただ、トランプ氏は未だ敗北を認めず、選挙に不正があったとして裁判で争う姿勢を崩していないため、双方の支持者がワシントンで衝突するなど大きな混乱を招いています。今回のトランプ氏の敗北の原因に関しては、新型コロナウィルスの感染対策の拙さをはじめ様々な要因が考えられますが、実際のところ詳細は誰にも分からないのではないでしょうか?大統領選挙のような世界的にも重要な事案に限らず、我々は日々の活動の中に大小さまざまな目標を設定し、その成就に向けて努力を重ねていますが、結果は必ずしも好ましいものばかりではありません。失敗に終わった場合はその原因を具に究明し、次の成功に繋げなければなりません。

イギリスの哲学者、ジェームズ・アレンは自らの著書『原因と結果の法則』の中で、“人の「思い」が原因となってそれぞれの結果を導く”、つまり、良い結果になるか悪い結果になるかは、人の心のあり方次第である、として、いくつかの事例を挙げこの法則を解説していますが、物事がある結果に帰着するには必ず相応の理由があることは間違いありません。好ましくない結果となった場合は、経緯などを詳しく調査し、真の原因を明らかにして、それに向けて的確に対策を打たないと状況は改善せず、同じ失敗を引き起こす可能性を残すことになります。ただ、日常、生活や仕事の中で経験するミスや失敗は、誰しも、起こしたくて起こしているのではなく、むしろ、起こさないよう努める中で発生するため、その原因を明らかにするのは容易ではありません。

翻って、医薬品の製造や品質管理における重大な逸脱やヒューマンエラーが発生した場合も、原因を明らかにした上、適正に改善対策を講じる必要があるわけですが、原因究明が難しいケースが少なくないことはご承知のとおりです。医薬品に限らず、様々な領域における製造の現場などで発生するヒューマンエラーやトラブルの原因を究明する場合、ミスを引き起こした作業者のみに着目し、作業者の不注意や作業手順の不順守などに関する調査に終始すると、原因究明は困難を極めます。真の原因を明らかにするには、設備や作業手順など作業現場の状況、また、組織や現場のコミュニケーション、健康管理、教育プログラムなど、組織とその運用の状況全般に関する総合的な調査アプローチが求められます。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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