体外診断用医薬品とはどういうものか?【第3回】

 意外かもしれないが、旧薬事法において、元々の法律には「体外診断用医薬品」という言葉は出てこない。平成14年の薬事法の改正で、体外診断用医薬品の定義が法律の条文に書かれることになり、現在の医薬品医療機器等法にこれが引き継がれている。その定義とは「専ら疾病の診断に使用されることが目的とされている医薬品のうち、人又は動物の身体に直接使用されることのないものをいう」である。
 旧薬事法の法律条文に出てくる前、最初に体外診断用医薬品という言葉が出てきたガイドラインは、昭和60年6月29日厚生省薬務局長通知である。当時としては画期的なことであった。
 ただし、このガイドラインが設定された背景はいわゆる外圧であり、いかにも日本的である。
 当時、日米貿易摩擦が政治問題化し、米国政府が日本政府に向けて「非関税障壁の撤廃」という触れ込みで市場開放に向けた圧力をかけていた。その時の議論の場がMOSS協議(市場分野別個別協議)である。筆者はこの時、MOSS協議の医療機器ワーキング委員会のメンバーとして、米国政府の指示の下で医療機器(体外診断薬は医療機器の一部という概念)の承認ハードルを下げるべく、実務メンバーとしてガイドライン案を作成していた。後に、体外診断薬の承認申請書記載事例が審査一課長通知で発出されることになるが、これは筆者の案が原型となった。
 この協議以前、体外診断薬は医療用医薬品の一部のカテゴリーとして取り扱われていた。つまり、諸外国では既に医療機器の一部であった体外診断薬を、日本では「医薬品」として扱っていた。そして今でも世界の潮流は異なり、「医薬品扱い」となっているのは、この頃からの名残である。
 筆者は医療用医薬品時代の承認申請書を10品目ほど作成していた。当時のそれは今とは比べ物にならない程のボリュームであり、原料規格も厳格に設定、原則として5施設の臨床試験を実施することが義務付けられているなど、今のような「簡略な」形式の承認申請書とは似ても似つかないものであった。
 当時、外資系企業の日本法人に勤務していて、米国の製造所や研究所から得られるデータでは、とても日本の承認申請書を作成することは出来ず、ほとんどの試験を日本で実施していた。外国の臨床試験データも参考資料程度のものであった。当時から、日本以外の他の先進各国では米国にて取得されたデータで製品販売の許認可を得られたので、確かにこれでは米国企業から不公平感が出てくるのも致し方なかった。
 結局、日本の体外診断薬は医薬品としてのポジションに立ちながら、海外における「医療機器の一部」というポジションを勘案し、国際的なハーモナイゼーションが進行している品質や安全性の管理は、医療機器における規範をそのまま用いた管理体系の下でなされることになった。我が国において体外診断薬はねじれた状況に置かれることになった。
 それでは、我が国における体外診断薬のヘルスケアという世界の位置づけはどのようなものか。
 その前に、「ヘルスケア」という言葉が曲者である。一般的には「健康の維持や増進のための行為や健康管理のこと」ということになっている。例えばヘルスケアアプリ。これはスマートフォンのアプリケーションの一つで、例えば、万歩計、血圧や心拍数の測定と記録の整理までやってくれるようなものである。筆者も毎日万歩計のお世話になっている。まさに、日常的な健康管理のサポートを行ってくれるようなものだ。ただし、このようなアプリでは「診断」まではやってくれない。最近では検査データをスマホにインプットし、体の状況を指し示す「パラメータ」を増やすことで、健康管理の幅と精度を高めるような仕組みも出来つつある。今後、健康管理目的のヘルスケアの市場にはさまざまな手段が提示されるだろう。ただ、このような世界で体外診断薬は端役の域を出ないだろう。むしろ、ここの市場はICTと医療機器が主役になると思われる。

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