ベトナムの医薬品市場・産業の変遷【第1回】

1)現状
9,500万人の人口を擁するベトナムは、近年の高い経済成長率の下、医薬品市場も毎年高い成長率を示し、現状では約4,000億円の規模となり、日本を含む外資にとっても魅力的な市場となっている。ベトナム保健省20年先を見据え更なる医療環境の充実、人材育成及び国際協調によるグローバル化を目指し、外資出資比率の緩和を含む規制緩和、法規制の整備・改善等を実施している。また、2020年のPIC/S加盟と「医薬品の現地製造の拡大」という質量両面での向上を目指している。近年、医薬品企業においてはDHG (大正), Domesco (Abbott), Davipharm (Adamed), Pymepharco (Stada), Mekophar (ニプロファーマ)等の外資による積極的な投資例が内資企業を刺激し、パートナーリングも含めて引き続き内外資の動向が注目される状況である。

2)医薬品市場の発展に関わる環境変化のポイント
1986年のドイ・モイ政策による資本主義経済化がベトナムの発展の起点であり、その後、1995年のアセアン加盟と米国との国交正常化、2007年のWTO加盟による米国企業の投資増加、2015年のアセアン経済共同体への参加等で国際社会への仲間入りをしてきた。
医薬品に関しては、次のスライドで示すように、1996年に「医薬品に関する国家ポリシー」が発表されたが、ベトナムにおいて医薬品産業が認知された年であると言えるだろう。その後、2014年に「国家発展戦略決議で2030年までのビジョンと2020年迄の目標」が発表された。
また、外資への開放に関しては、1989年の外国投資法による外資の投資呼び込み、2015年の外国資本49%の上限緩和、2017年の輸入会社の設立が可能となったことがポイントである。
医薬品市場及び申請関連では、1989年以前は医薬品価格が統制されていたが、1989年に自由価格と統制価格制度の採用、2009年のACTDへの申請統一、2016年の新薬申請に対する現地臨床試験の義務の撤廃、2020年にPIC/S加盟予定がポイントである。尚、国営企業の民営化も一つの大きな変革で、1990年に12,000社あった国営企業は2017年には700社となったと言われている。
 


上記のスライドは1996年に発表された「医薬品に関する国家ポリシー」で、その骨子は「高品質の医薬品の安定供給とその適正安全使用」である。その後、少し間が空くが、2014年に「医薬品産業の開発戦略と2020年迄の目標及び2030年までのビジョン」が発表された。この2030年までのビジョンでは、安定供給と医薬品産業の育成が言われている。又、2020年までの目標として、安定供給、現地生産の増加、製品の再評価、供給面の改善(卸数は1,200社、1次、2次、3次卸等)、適正使用(薬剤の濫用や副作用対応)薬剤師の育成、特に臨床薬剤師の育成というのが謳われている。中でも重要なのは、医薬品産業開発戦略の目標を達成するために、ベトナム政府は国内企業の発展に力を入れると共に、医薬品分野の外資系投資に対して非常に興味を持っており「医薬品産業開発のために、国内外の団体・個人の投資を促進する」と明確に策定されている点である。

尚、ベトナム国民の視点から現状をみた場合、これまでの経済発展により国民所得が増加し中間所得者層の拡大、また、人口も10年以内に1億人に達する予想がされている(1985年の出生率が5人弱であったのが、2人っ子政策により出生率は2を下回り少子化傾向にあるが、この政策も見直しされている)。このような状況下において、ベトナム国民の健康意識は近年、益々高まっているようで、筆者の2019年2月ベトナム訪問時にも、ベトナム人は食品の安全性に敏感であるという話も聞いたところである。また、医療面では高齢者は経済発展で蓄財した中間所得者層が良質の医療受診を求め、青年・壮年層は健康意識の高まりと中間所得者層が良質の医療受診を求めている状況にある。又、未成年は少子化と中間所得者層の増加が子供の健康と教育にお金をかけるというような背景があるようだ。これらの状況はベトナムに限らず、アセアン諸国にも共通する点でもある。

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